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今年の「コイツだ!」枠は自称「伝説の三塁コーチ」 健大高崎・金井俐樹、大学でも伝説を期待

スポニチアネックス 2024年8月15日 7時32分

 記者として働く上で、「鉄則」にしている言葉がある。神宮でのネット裏で広島・苑田聡彦スカウト統括部長に聞いた言葉だ。「コイツだ!と思った選手には“とことん行きんさい”って他のスカウトには言うとるんですよ」。その言葉が不思議と胸に刺さり、その後は行動指針にしている。

 今年の「コイツだ!」枠は健大高崎だった。記者の担当地区は東北~関東と広大だが、昨秋から歴史を変えそうな気配がプンプンしていた。優勝した今春の選抜前にはカメラ片手に、捕手の箱山遥人主将(3年)に一日密着した。ウオーミングアップから就寝前に野球ノートを書くところまで、とことん追いかけた。高校野球ファンは「隙のない完璧な主将」のイメージかもしれないが、新チーム始動時は周囲との意識の高さにギャップがあった。主将としてうまくいかない日々でストレスから急性虫垂炎になったこともある。主将として結果、選手として勝利をつかむことでリーダーシップは少しずつ増した。どん底を知るからこそ箱山は常に危機感を持っていた。

 箱山の他にもダブルエースの左腕・佐藤龍月(りゅうが=2年)、右腕・石垣元気(2年)にも密着。1人、1人選手の顔と名前が一致するようになったころ、チームにキーパーソンがいることに気づいた。箱山の控え捕手・金井俐樹(3年)。普段の練習ではチームの雰囲気を引き締める役割を担い、試合では三塁ベースコーチとして「機動破壊」のタクトを振る。世代No.1捕手がいるため公式戦に出場することはほとんどない。

 史上8校目の春夏連覇を目指した健大高崎は今夏の甲子園2回戦で智弁学園に敗れた。試合後の取材ルームは号泣する選手たちの声が響いた。帽子を深くかぶり、うつむく石垣。上を見ることで涙をこぼさないようにする高山裕次郎(3年)。目を真っ赤にする金井に最後の夏を終えた心境を聞いた。

 「最後のプレーを見て、やっぱり箱山は凄いなって思いました。箱山が自分の上にいてよかった。もう絶対届かないNo.1キャッチャーなんですよ。ずっと追い続けてきたんですけど超えられない壁ってあるんだなって。中学の時はそんなこと思ったことなかった。それでも箱山と切磋琢磨(せっさたくま)してきた2年半、自分にしかできないことを探したんです。いま振り返ると短いけど良い時間だったと思います」

 自称「伝説の三塁コーチ」。球場中に響き渡る絶叫と大きなアクション。そして何より適切な走塁判断は「伝説」といっていいほどの仕事ぶりだった。初戦の英明(香川)戦では走者二塁から左翼への深い飛球の際、タッチアップで一気に二塁から本塁生還を果たす好走塁を演出した。昨秋の新チームから青柳博文監督が金井を三塁ベースコーチに指名。「自分の居場所をつくってくれた。三塁コーチがあったからこそ、自分がチームに必要な存在になれたと思う。最後までできてうれしかった」と感謝した。

 高校野球は終わったが、野球人生はまだまだ続く。「自分は大学では硬式野球をやらずに準硬式に進もうと思います。箱山に教わったことを続けようと思う。アイツの言うことに間違いはないので。箱山に自慢できるような大学野球生活にしたいです」。甲子園での打席は選抜での1打席で結果は「捕犠打」。だが、健大高崎初の日本一へ、金井は間違いなく欠けては完成しないピースの1つだった。大学野球ではプレーで「伝説」を残すことを願っている。(記者コラム・柳内 遼平)

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