11日の広島戦(京セラドーム)で高橋が1025日ぶりの勝利を手にしたのは、担当記者にとっても心が震えるシーンだった。
試合後、ウイニングボールを手渡したのは岩崎。ただ、この試合では11年目左腕にセーブはついていない。登板した9回は4点優勢の展開だった。9連戦中のまっただ中で、可能な限り守護神は温存したいはず…。本来なら他の投手が起用されてもおかしくなかった。
「1点差でも、20点差でもあの試合は投げるつもりでしたよ。ウイニングボールを渡したかったのもある」
起用は本人が決められることではなくても、岩崎はそんな心持ちで肩を温めていた。年末年始は同じ故郷の静岡で合同自主トレを行う2人。シーズン中も突然、鳴尾浜球場に現れて高橋のリハビリの進捗(しんちょく)を確認する姿を私も何度も目撃した。
そして、先輩はユーモアを交えたエールも込め、試合当日にある“仕掛け”を準備していた。2回裏、高橋が打席に向かった際に流れた登場曲「シカ色デイズ」は、岩崎が1週間前に本人には内緒で選曲。アニメの主題歌で「しかのこのこのここしたんたん」のフレーズが妙に病みつきになる一曲は「こしたんたん(虎視眈々)」が復活を期す後輩の立場に合っていると思い、選んだ。
「(高橋の投球は)思ったより良かったなって。バッターを差し込めていたし。まだまだこれから良くなると思いますし」
京セラドームからの帰宅の際、岩崎は別れ際にこんな言葉をかけたそうだ。「気を付けて帰れよ。2日間ぐらいは余韻に浸って、また次の登板に向けて頑張ってください」。祝福と叱咤(しった)の交ざった言葉に聞こえた。(遠藤 礼)