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これぞ柳の家の底力!笑って、うなって、膝を叩いた

スポニチアネックス 2024年8月29日 17時18分

 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】ここ数年、毎日映画コンクールが表彰式会場としてお世話になっている東京・目黒区の「めぐろパーシモンホール」で「柳の家の三人会」と題する落語会が開かれ、足を運んだ。

 柳亭市馬(62)、柳家喬太郎(60)、そして柳家花緑(53)の豪華メンバーで、三人三様の噺(はなし)で満員ファンを酔わせた。「柳の家の三人会」は同ホールで演者を変えて定期的に開催されており、目黒区民に人気のイベントだ。

 市馬の弟子で、前座の柳亭市助(31)が開口一番を務め、「芋俵」を威勢良くぶっ放した。落語協会の芸人紹介によると、長野県須坂市出身で、本名が「桑原華画(かが)」とある。由来が気になる落語家さんだ。

 三人会の先陣を切ったのは花緑だった。祖父の人間国宝、五代目柳家小さん師の日常をマクラに散りばめながら、目黒区民に楽しんでもらおうとの思いからだろう。すーっと「目黒のさんま」に入った。目黒に遠乗りに出掛けた殿様が“庶民の魚”さんまに出合い、愛してしまう内容だ。

 後日、殿様がさんまを所望したため、家来が日本橋の魚河岸で買い求めてくるが、焼くと脂がいっぱい出て体に悪いからと焼かずに蒸し、さらには骨がのどに刺さっては一大事と、1本1本抜いたうえ、お椀(わん)にして出したところ…。「どこで求めたさんまか」と尋ねた殿様に家来が日本橋魚河岸と答えると、したり顔で「さんまは目黒に限る」とサゲる人気演目。花緑は、殿様がさんまの頭と尻尾を両手で持ってハモニカを吹くかのようにかぶりつく様子をおもしろおかしく活写。肩の力が抜けた軽妙な一席で沸かせた。

 15分間の休憩を挟んで、登場したのが喬太郎。やはり目黒区民のプライドをくすぐるマクラで沸かせた後に入った演目は「首ったけ」だった。五代目古今亭志ん生、十代目金原亭馬生、三代目古今亭志ん朝の親子が得意とした郭(くるわ)噺だ。

 吉原のいつもの見世に上がった辰。なじみの花魁が回し(一晩に何人もの相手をすること)を取って、どこかのお大尽とどんちゃん騒ぎ。ふて腐れた辰が「帰るから金を返せ」と野暮なことを言い出したから、花魁は仕方なく顔を出すが、辰は恨みつらみの言葉を残して見世を後にする。外は真っ暗。そんな時、向かいの見世に灯りが見えたので入ってみると、前から辰に気があった花魁が至れり尽くせりの接待をしてくれて…。

 後日、吉原から火が出て、辰が駆けつけると、「おはぐろどぶ」に落ちて助けを求めている女に遭遇。それはけんか別れした花魁だった。「てめえなんか沈んじゃえ」と恐ろしいことを言う辰に対し、花魁が「そんなこと言わずに助けておくれ。今度ばかりは首ったけ」とサゲる。

 安定感抜群の喬太郎。貫録十分に高座を務めたが、この噺を初めて聞いたという知人は「見世に上がっても、振られることがあることがよくわからなかった。後で志ん朝さんのYouTubeを見て“回し”の意味を知り、納得した」と話していた。

 トリを飾って登場したのが落語協会の会長を柳家さん喬(76)にバトンタッチしたばかりの市馬だ。夏の定番「船徳」を披露した。親元を勘当され、船宿に居候している若だんなの徳兵衛。浅草観音様の四万六千日(しまんろくせんにち)の縁日で船頭がみんな出払ってしまったところに、なじみの客から声がかかる。船宿の女房の心配をよそに徳兵衛が船を出すが…。

 「四万六千日 お暑い盛りでございます」

 映像で見られる八代目桂文楽の高座。あの名調子が耳に残るが、さしもの文楽もシャッポを脱ぐに違いないのが市馬の歌。にわか船頭になった若だんなが舟を漕ぎながら朗々と歌う場面は市馬の独壇場で、ならではの味付けだ。

 柳の家の三人会。これからもずっと続いて欲しいと、一目黒区民として切に思う。

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