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【内田雅也の追球】速球一撃と民主的投球

スポニチアネックス 2024年9月4日 8時2分

 ◇セ・リーグ 阪神4―1中日(2024年9月3日 甲子園)

 試合前練習中の一塁ベンチで阪神監督・岡田彰布は「真っすぐを打つことよ」と言った。難敵の中日先発・高橋宏斗の攻略法である。「半分以上真っすぐやろ」。確かにNPB統計・分析サイト「翼」によると球種別で51・5%が直球だった=2日現在=。

 実際、岡田が指示した狙い通り、直球を打って攻略した。浴びせた8安打中6本が直球だった。さらに特筆すべきは、この6安打の打席でファウルは1本だけだった。つまり、阪神の各打者は的を絞った速球を打ち損じることなく、一撃で仕留めていたのだ。

 昨年の日本シリーズ第1戦を思う。難敵の山本由伸を6回途中でKOした。4点を奪った5回に放った5安打中4本が速球を打った。この時も岡田は「真っすぐを打て」と指示していた。

 ともに150キロ台速球にカッターやツーシーム、フォークなど多彩な球種を操る。「そんないろんな球を狙われへんよ。真っすぐを打ちにいくことよ」。選手に難しいことは要求しない。指示は簡潔で的を射ていた。

 この攻撃を呼んだのは先発・高橋遥人の投球である。7回無失点。打たせて取る投球が光った。

 21個のアウトのうち、ゴロで実に15個(併殺を2と勘定)を奪った。

 以前も書いた。米マイナーリーグが舞台の映画『さよならゲーム』でノーコンの若手剛球投手をベテラン捕手がたしなめる。「三振は退屈だ。いやファシストだ。ゴロを打たせるんだ。その方がよっぽど民主的だぞ」

 1人でアウトを奪う三振より、バックアップも含め全員が動くゴロはチームに活気を呼ぶ。試合中に会ったOB会長・川藤幸三が「三振は醍醐味(だいごみ)やが、チームとしてはゴロの方が乗っていけるんよな」と話していた。先制2点打を放った木浪聖也が「守りからいいリズムで入れた」と話していた。

 ただし、4、7回とピンチは速球で三振で切り抜けた。剛柔併せ持つすごみがあった。

 8回が始まる前、他球場途中経過が伝えられ、巨人、広島劣勢に希望の歓声がわき上がった。

 この日は岡田の父・勇郎の命日だった。没後38年になる。阪神の有力後援者だった父の下、猛虎への情愛が育まれた。天国の父に白星を贈り、誓ったのは、不屈の姿勢だった。 =敬称略= (編集委員)

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