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【内田雅也の追球】「事件」は魔の時刻に起きた!致命傷となった佐藤輝の失策 肝に銘じたい古い警句

スポニチアネックス 2024年9月9日 8時3分

 ◇セ・リーグ 阪神3-5ヤクルト(2024年9月8日 神宮)

 今では珍しくなった午後5時開始の「薄暮試合」だった。薄暮とは日没から暗くなるまでの時間帯を指す。東京の日没時刻は5時59分だった。

 あえて「事件」と書く。その事件が起きたのは日没前のたそがれ時、逢魔時(おうまがとき)ともいう。昼と夜が入れ替わるとき、薄暗くなってきた薄暮のころで、昔から、魔物や災いに遭遇する時間帯だとされる。

 3回裏1死、三塁付近に上がった何でもないフライを佐藤輝明が落球した。捕球体勢に入り、グラブに当てながら、ボールがすり抜け、頭に当たって跳ね返った。宇野勝(中日)のヘディング事件(1981年)を思わせる珍プレーだった。

 スローVTRで見てもなぜ頭に当たったのか分からない。恐らく佐藤輝自身も説明できないのではないか。

 魔物の仕業である。

 この凡失は高価なエラーとなった。この後2死一、二塁から西勇輝が沢井廉にプロ初本塁打の3ランを浴びたのだ。

 佐藤輝の失策が致命傷となる敗戦が目立つ。西勇は「味方のミスをカバーできなかった」と悔やんだ。落球がなければ無失点。自責点にはならない。以前も書いたが、今季の阪神はチーム非自責点(失策絡みの失点)が61点に上り、リーグ最多だ。アキレス腱(けん)が浮き彫りとなる。

 デーゲームで広島も巨人も敗れて誰もが勇んだ。「勝てば――」と欲が出る一戦だった。

 ただ、1回表無死一塁で中野拓夢が送りバントを続けて失敗した時から嫌な流れを感じていた。ヒットエンドランも一塁走者・近本光司の二盗憤死とリズムが狂っていた。思えば、あの拙攻も逢魔時だった。

 「6時からゲームしとったら勝ってたよな。3―0やったな」と監督・岡田彰布は言った。魔物が去った日没後、4回表以降なら、確かに3―0で勝ちだった。

 野球はちょっとしたことで流れが変わる。それはゲームもペナントレースも同じだ。「一寸先は闇」と大リーグの名フロントマン、サンディ・アルダーソンが語っている。ロジャー・エンジェル『球場へいこう』(東京書籍)にある。

 「いま負けたばかりの試合が谷底なのか、わかりはしない。常に浮かれ過ぎず、落ち込み過ぎぬように、というベースボールの古い警句は、つまり平常心を保てということだ」。あらためて肝に銘じたい。 =敬称略= (編集委員)

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