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「虎に翼」少年&バッドエンド想定→寄り添う物語に変更 片岡凜“怪演”も影響 脚本家語る美佐江&美雪

スポニチアネックス 2024年9月24日 8時18分

 ◇「虎に翼」脚本・吉田恵里香氏インタビュー

 女優の伊藤沙莉(30)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「虎に翼」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は24日、第127回が放送され、主人公・佐田寅子の心残り、後悔だった森口美佐江・並木美雪母娘との対話、関係性に“決着”がついた。女優の片岡凜(22)が一人二役に挑み、母娘役を“怪演”。朝ドラとしては異色とも言えるサスペンス・ホラー色を帯びる展開が、インターネット上で反響を呼んだ。「新潟編」(第16~19週)からの“ロングパス伏線回収”で、最終週(第26週)のヤマ場の一つとなった。“家裁の母”が尽力した「少年犯罪と更生」。オリジナル脚本を手掛けた吉田恵里香氏(36)に作劇の舞台裏、狙いを聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 向田邦子賞に輝いたNHKよるドラ「恋せぬふたり」などの吉田氏が脚本を担当した朝ドラ通算110作目。日本初の女性弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子氏をモデルに、法曹の世界に飛び込む日本初の女性・猪爪(佐田)寅子(ともこ)の人生を紡ぐ。吉田氏は初の朝ドラ脚本。伊藤は2017年度前期「ひよっこ」以来2回目の朝ドラ出演、初主演となった。

 連続ひったくり事件への関与疑いや“赤い腕飾り”で「新潟編」の“ラスボス的”な存在として注目を集めた法学部志望の高校生・森口美佐江。1953年(昭和28年)3月、東京大学に合格(第93回、8月7日)。しかし、その後の動向は伝えられず、気掛かりな視聴者も少なくなかった。

 第120回(9月13日)終わりの次週予告。美佐江と瓜二つのセーラー服姿の女学生(美雪)が寅子の前に現れ、SNS上は騒然となった。第125回(9月20日)、美佐江は美雪を出産して3年後に他界していたことが判明。寅子は美佐江が遺した“赤い栞の手帳”を読み、愕然とした。

 そして、この日の第127回。美雪は母と同様の「窃盗教唆事件」「売春防止法違反事件」により再び東京家裁に送致。寅子は約20年前の後悔と向き合い、美雪に“魂の説得”を試みた。

 美佐江というキャラクターは、戦後すぐの時代を生き抜くために犯罪を犯してしまった道男(和田庵)らとは異なり「新たな世代や少年犯罪の変化を描こうというベースがあって生まれました。特別、サスペンス的な展開にしようと意図したわけではありません」(制作統括の尾崎裕和チーフ・プロデューサー)。戦後、既存の道徳観を欠いた若者による「アプレゲール犯罪」が頻繁した時代背景を盛り込んだ。

 吉田氏も「少年犯罪と更生については初期の段階から考えていて、道男たちのように家裁の人たちが寄り添うことで立ち直っていければいいんですけど、そうじゃない少年犯罪についてはどうすればいいのか、という問題を描くために美佐江というキャラクターが生まれました。当初は、仮にAくんと呼びますけど、男の子で書いていたんですけど、道男との兼ね合いもあって女の子に変わりました。性別が変わったことで設定や背景、物語も大きく変更されました」と補足。

 「今回の美佐江で言えば、もちろん全部が寅子や家裁の責任ではないですし、やれることにも限度があるのですが、誰かが寄り添い切れず、味方になり切れず、結果的に手放してしまったことで、その子どもたちが抱えていた問題が次の世代に連鎖してしまう。そういう悲しい状況に思いを馳せていただきたくて、Aくんとその子どもが出てくるという展開は最初の構想からありました。久藤(沢村一樹)も『子どもたちと家庭の問題は地続きなんだ』(第53回、6月12日)と言っていましたけど、まさにそこに重なりますよね」と美雪というキャラクターの誕生経緯、裏側を明かした。

 当初は、結局Aくん親子を寅子が救えないというバッドエンドを想定。「寅子の後悔の象徴と少年犯罪の現実を見せる。それでも少年少女に手を差し伸べていかなければと、寅子が再度決意する…という描き方をするつもりでした。でも、性別と設定を変更して、さらに片岡さんが演じて実物になった美佐江という人を映像で目の当たりにした時に、彼女を恐怖の対象や異質な存在のままにしておいてはいけないなと実感して。寄り添ってみれば、見えてくること、分かってくることがある。『虎に翼』は、その時は手放してしまっても、後になってもあきらめず、手を差し伸べる物語にすべきだなと思いました」と終盤のストーリー展開を変更した。

 片岡の“怪演”が影響した?と尋ねると「映像を見て、自分も実際、怖かったですし、恐怖の対象や異質な存在で終わらせてはいけないなと思ったのは事実です。素晴らしい演技だったと思います」と称賛した。

 「現実はシビア、と突き放すんじゃなくて、理想的かもしれませんけど、寄り添うことで救える人がいるんだ、完全に救えなくても悲惨な事件を止められるかもしれないんだ、と。エンタメで伝えることも大切だと思い直しました。その気持ちが自分の中で大きくなったので、ハッピーエンドの形になりました。必然的に、美雪のキャラクターが想定から一番変わったかもしれません」

 本編最終回(9月27日、第130回)まで残り3回。尊属殺の重罰規定、少年法改正の問題、寅子たちを待つ運命は…。吉田氏の筆に期待が高まる。

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