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【内田雅也の追球】今季を象徴する敗戦

スポニチアネックス 2024年9月28日 8時0分

 ◇セ・リーグ 阪神2―3広島(2024年9月27日 マツダ)

 ある意味、今季の阪神を象徴するサヨナラ負けだった。規定最終回の延長12回裏1死、一、二塁間のゴロをさばいた大山悠輔の一塁送球が乱れた。打者走者は二塁まで進んだ。そして無情の白球が前進守備の右翼頭上を越えていった。

 監督・岡田彰布は敗戦後、「引き分けで良かったんよ」と言った。すでに延長10回表攻撃中に巨人の勝利が伝わり、マジックナンバーは2になっていた。むろん一戦必勝で臨んでいる阪神だが、勝てずとも、引き分けでも2で変わらない。

 「エラーがな。大事なところでエラーが出て、それがみんな点に絡むやろう。今年は最初から最後までなあ」

 どこか終戦での総括のように聞こえて悲しい。

 確かに、巨人と成績を比べても投打はさほど変わらない。チーム打率は阪神2割4分4厘2毛で巨人は2割4分4厘3毛と1毛差。チーム防御率は阪神2・47、巨人2・49と0・02差。それでも総失点は阪神401に巨人は372なのだ=成績は26日現在、以下同=。

 差は失策数に見える。阪神は83を数え、巨人は55。このため非自責点――つまり失策がらみの失点――が阪神は61に上り、巨人は25しかなかった。この夜の決勝点も非自責点である。この守備の差がシーズン最終盤に来て、出たわけである。

 ただ、逆転優勝にかける不屈の闘志、あきらめない姿勢は十分に伝わってきた。0―2の7回表、佐藤輝明が右中間席に16号ソロを打ち込んだ。1回表も0ボール2ストライクから四球を選んでいた。8回表は1死から中野拓夢が送り、森下翔太が左前に同点打を放った。12回表2死からも粘って四球を得ている。

 今季、幾度も首位から離されながら、不屈の姿勢で食らいついてきた。球団史上初(1リーグ時代は除く)となる連覇の偉業に向け、挑戦する姿勢は多くの人びとに希望を与えてきた。

 いよいよ、追い詰められたいま、最後まで敢闘する姿を見せたい。

 詩人エミリー・ディキンソンの詩に「わたしは苦悩の表情が好き」がある。アメリカ野球小説傑作集で紹介されていた。「それが本当だと知っているから/人々はわざと痙攣(けいれん)して見せたり/苦しんでるふりをしたりはしない」

 敗戦投手となった村上頌樹は泣いていた。猛虎たちは苦しみ、何とか前を向き、本当の顔を見せていた。 =敬称略= (編集委員)

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