Infoseek 楽天

【内田雅也の追球】悔恨を胸に刻む時

スポニチアネックス 2024年9月29日 8時3分

 ◇セ・リーグ 阪神2―7ヤクルト(2024年9月28日 神宮)

 9回表2死、最後の打者となる佐藤輝明が打席に立った時、マツダスタジアムで巨人の優勝が決まった。もうすでに、振り絞る気力も残っていなかった。阪神は、猛虎たちは、絶望のなかで試合を行っていた。

 巨人リードが伝わった5回表以降、阪神は1人の走者も出せず、最後まで3者凡退を繰り返した。先発ジェレミー・ビーズリーが打球直撃の後に3ランを浴び、その後も救援陣は毎回の14長短打を浴びた。

 敗戦後、連覇が消えたことに監督・岡田彰布は「そりゃあ、勝ちにいってるわけやけど負けることもあるよ」と言った。勝負事なのだ。勝者と敗者が生まれる。優勝は1チームだけで、残る5チームは敗者となる。

 誤算はいくらもあった。岡田は「打てんかったことよ」と言った。シーズン前半は貧打貧攻に泣いた。森下翔太、大山悠輔、佐藤輝明を相次いで2軍に落とした。後半戦に入り、その打棒が戻ったのは荒療治と言える2軍降格の効果だろう。

 9月に入って2度の5連勝を記録するなど、猛追した。天王山と言えた22日、23日の直接対決2連戦(甲子園)で初戦を1―0で勝ち1ゲーム差と迫ったが、翌日は0―1で敗れた。あの日、会見を行わなかった岡田は「やっぱり、甲子園の2戦目よ」と痛恨の敗戦だったことを明かした。

 今年もまた、巨人と争っての優勝はならなかった。これまで何度も書いてきたが、1950年の2リーグ制以降、阪神優勝・巨人2位は一度もない。阪神が優勝した6度のシーズン、巨人は3位以下に沈んでいた。逆に巨人優勝・阪神2位は今回で実に17度を数える。巨人V9時代には「万年2位」と呼ばれた。無念と挫折の歴史である。

 だからこそ、先人は「伝統の一戦」の相手をライバルと定めてやってきた。「打倒巨人」を果たしての優勝こそ「本懐」というわけだ。少年時代から阪神ファンだった岡田はその歴史を知る。

 ただ、今の選手たちは幸か不幸か、この無念の歴史を肌で知らない。近年の巨人優勝・阪神2位は2020年だが大差だった。その前は13、14年だが、梅野隆太郎ら一部を除き、入団前の話だ。

 若き猛虎たちは昨年優勝の歓喜を知り、今年2位の無念を味わい、新しい歴史をつくっている。そのためにもこの夜は大切だ。悔恨を胸に刻んでおきたい。 =敬称略= (編集委員)

この記事の関連ニュース