【室井昌也コラム 月に2回は韓情移入】
「先発エースがリリーフで緊急登板」
チームの命運を握る大一番でそんな場面を目にすることがある。それは「力投の末に勝利」という結末とセットとなった「名勝負」になることが少なくない。しかし先週1日、韓国KBOリーグでの一戦はそうではなかった。
今年の優勝チームを決める「ポストシーズン」への進出権をかけた、同率5位の2チームによる一発勝負の「5位決定戦」。KTウィズ―SSGランダーズでの出来事だ。
SSGが3―1の2点リードで迎えた8回の守り、無死一塁でSSGは3番手のマウンドにエース左腕、36歳の金広鉉(キム・グァンヒョン)を送った。
金広鉉は最初の打者のヒットを浴び、無死一、三塁となって打席には2番メル・ロハス・ジュニア(元阪神)。直球2つで2ボールとなった3球目、甘く入ったチェンジアップをロハスがとらえた。
打球は左中間スタンドに飛び込む逆転3ランホームラン。天を仰ぐ金広鉉を横目にロハスはダイヤモンドを一周した。この一打が決勝打となって、4―3で勝利したKTがワイルドカード決定戦進出を決めた。
今季の金広鉉とロハスの対戦成績は10打数無安打6三振。しかしそのデータ通りとはならず、SSGにとってチームに勢いをつけるためのエース投入が結果的に裏目となった。
敗戦後のSSGのビジター側ベンチ裏。普段なら試合後すぐに球場を後にするところ、約1時間が経過しても選手、首脳陣が控室から出てくることはなかった。結果に不満のファンたちが球団バスを取り囲んでいるという情報があったからだ。
試合前、SSGの李崇勇(イ・スンヨン)監督は金広鉉について「中2日での登板になるのでリリーフで使うことはない」と明言。そのことは監督の談話として記事化され、ファンの目にも触れていた。
一方で金広鉉はコーチ陣に「チームのためにマウンドに上がる」と登板を強く直訴していた。球団関係者によると李監督は記者陣との懇談後、試合開始直前に金広鉉と対話。金広鉉の意向を確認した李監督とコーチ陣は金広鉉の意思を尊重し、リードした場面での終盤1イニング程度起用する方針を急きょ固めた。
通算170勝、これまで数々のチームの勝利に貢献し続けてきた金広鉉。「(金)広鉉が投げると言えば、チームが乗っていくのはみんな知っている。ただ今回は思うような結果にならなかった」。古株のチームスタッフはそう話した。
一方、勝ったKTは勢いをつけてワイルドカード決定戦で連勝し、3位LGツインズとの準プレーオフを戦っている。
データ、体力、人情…。あらゆる要素を基に瞬間的な判断が求められる短期決戦。KBOリーグのポストシーズンは21日開幕の韓国シリーズまで約1カ月間続く。