今やスマートフォンやタブレットで視聴するのが当たり前となった海外サッカー配信で、中継ディレクターとして活躍する元Jリーガーがいる。J1横浜出身で、ストライカーとして日本を含む計7カ国でプレーした斎藤陽介氏(36)だ。18年6月の現役引退後にスポーツ中継の映像制作を手がける「EASY PRODUCTION株式会社」に入社。そんな斎藤氏のセカンドキャリアに迫った。 (取材・構成 垣内 一之)
多数の中継ブースも構える東京・北青山にある「EASY PRODUCTION」本社。笑顔で迎えてくれた斎藤氏は、眠そうな目をこすりながらも「30歳で引退してから約6年。本当にあっという間で、それくらい熱中できるものに合えて良かったなと心から思っています」と充実した表情で語った。
入社のきっかけは、現役時代から親交があった同社社長からの誘いだった。
「海外移籍した時もそうですけど、自分は直感で行動するタイプ。“30歳までは海外で外国人ストライカーとして頑張る”という目標を立てていた。プレーした全ての国で得点して、次どうしようかといろんな方に相談している中、今の社長と話をして、スポーツ全般に関わる仕事をしていくのも面白いかなと思って直感で決めました。当時はエストニアでプレーしていたのですが、契約を解除して帰国しましたからね(笑い)」
「EASY PRODUCTION」は17年に創設。18年からはプロ野球の2軍戦の制作・中継をスタートさせ、事業拡大とともに、斎藤氏もさまざまな役割をこなしてきた。
「海外事業も請け負うようになって、カンボジアリーグの中継担当もやりました。カンボジアは当時、中継は各節1試合のみでしたが、僕らの機材を導入して環境を整え、僕の指示で映像にグラフィックなども挿入したりしました。今は全試合中継するようになって、観客も視聴者数も以前とは見違えるほど変わり、頑張って良かったなと思います」
同社はスマートプロダクションシステムを自社で開発することにより、少人数による中継体制を実現。制作費の大幅削減により映像制作の国内シェア拡大につなげている。今季からはサッカー世界最高峰リーグの中継・制作も担当。斎藤氏も専門分野で活躍を広げている。
「現地映像の場合はそこまでの準備はないのですが、自分たちが現場で作るとなると資料作り、あとは番組の構成ですね。選手情報も事前に入れないといけないし、機材もゼロから組み立てて、問題ないかチェックしたり、意外とやることは多いです。海外サッカーは試合数が多い週末は大変です。夕方から朝の6~7時まで会社に缶詰め状態。日本にいながら時差ぼけみたいな感じになります(笑い)」
そんな多忙な日々を過ごす斎藤氏は現役時代、計7カ国でプレー。その経験が今の仕事にも十分に生かされているという。
「環境が違ういろんな国でプレーして備わった対応力が、今の自分の強みになっていると思います。型にはまった仕事ではないので、いろんなスポーツに携わっている中で、海外の経験が生きて、凄く柔軟に対応できている。それこそ最初はパソコンもたいして使えなかったですが、数をこなしながら、細かい機材の仕組み、中継業務をこなしています」
今季からは独自のプラットフォームを立ち上げ、ドイツ2部や松木玖生が所属するトルコ1部など日本人がプレーする海外リーグの試合配信も開始した。
「自分も10代の頃、海外サッカーを見て、中田英寿さんに憧れて、夢を抱いて、海を渡った。今は自分が映像を提供する立場。“将来、海外でプレーしたい”と思っている子供たちを少しでも手助けできれば。そういった仕事に関われるのは凄くやりがいを感じています」
斎藤氏が携わった海外サッカー映像を見た子供たちの中から、数年後に海外で活躍する選手が出現する――。斎藤氏にとってもこんなうれしいことはないだろう。
◇斎藤 陽介(さいとう・ようすけ)1988年(昭63)4月7日生まれ、東京都世田谷区出身の36歳。本職はFW。横浜ユース出身で07年トップ昇格。10年に金沢(当時JFL)に期限付き移籍し、11年に新潟シンガポールに完全移籍。その後はラトビア、ロシア、ベラルーシ、オーストラリア、エストニアでプレーし18年6月に引退。引退後は「EASY PRODUCTION株式会社」に入社し、現在に至る。
▽イージースポーツ2 「EASY PRODUCTION株式会社」が展開するスポーツ専門の定額制動画配信サービス。24年8月からは海外サッカーに特化したサービスを開始。オーストリア1部、ドイツ2部、トルコ1部、韓国Kリーグ、ポルトガルカップ戦など日本人所属クラブを中心に配信している。同社アドレス(https://easysports2.stores.play.jp/)