J3沼津の元日本代表MF伊東輝悦(50)が31日、静岡県沼津市内で記者会見し、今季限りでの引退を表明した。96年アトランタ五輪では王国ブラジルを下した「マイアミの奇跡」で決勝点をマークし、日本サッカーの歴史に名を刻んだ。Jリーグでは93年の清水入りから32年間、J1からJ3まで全カテゴリーでプレーした。現役Jリーガー最年長の鉄人がついにスパイクを脱ぐ。アトランタ五輪などでともに戦った本紙評論家の城彰二氏(49)がメッセージを寄せた。
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なんといっても印象的なのはマイアミの奇跡。あの決勝ゴールは左サイドから自分にアーリークロスを上げて、相手GKとDFの連係ミスを誘うのが狙いだった。ハーフウエーライン付近からゴール前まで走って決めたテルさんは「あそこにボールが来る」と思っていたらしい。自分も近くにいて一瞬「これは彰二に決めさせるべき」と迷ったそうだ。テルさんが決めたのに申し訳ないと言って、ホテルで直接「お前のゴールだよ」と言われた記憶がある。それぐらい謙虚な人だった。
初めて会ったのは中学2年生の頃で、1学年上のテルさんはドリブル、シュートと何でもできて、状況判断も戦術眼もズバぬけていて次元が違った。マラドーナをもじって“テルドーナ”と言われていたぐらい。ピッチの外では穏やかで寡黙、人見知りでみんなと一緒にわいわいやることはほとんどなかった。
今夏に会った時は「もっとうまくなれる」と思ってやっていると言っていた。最近はトレーニングがきついと感じるようになったらしいが、それでも「そういう姿は見せたくない」と言っていた。同世代として、ここまでよく頑張ったと思う。32年間、お疲れさまでした。 (元日本代表FW)
▽マイアミの奇跡 96年アトランタ五輪1次リーグ初戦で日本代表が王国ブラジルを1―0で下した。序盤から防戦一方もGK川口能活が好守を連発。0―0の後半27分、MF路木龍次が相手DFとGK間に山なりのパスを送る。FW城彰二が走り込むと防ごうとした相手GKとDFが激突。こぼれ球をボランチの伊東が押し込んだ。シュート数は4対28と圧倒されながらも最後まで守り切り、五輪史上最大の番狂わせと言われた。当時の中心メンバーは前園真聖、中田英寿ら。ブラジルにはロベルト・カルロス、ロナウドらがいた。
◇伊東 輝悦(いとう・てるよし)1974年(昭49)8月31日生まれ、静岡市出身の50歳。東海大一高(現東海大静岡翔洋)から清水に加入。98年W杯フランス大会で日本代表入りも出場はなし。11年に当時J1の甲府へ移籍、J3長野、J3秋田を経て17年に沼津に加入した。国際Aマッチ通算27戦出場。J1からJ3までリーグ戦は通算560戦出場で退場や累積警告による出場停止はなし。1メートル68、70キロ。右利き。