◇SMBC日本シリーズ2024第6戦 DeNA11―2ソフトバンク(2024年11月3日 横浜)
【田淵幸一 日本シリーズ大分析】第6戦は王手をかけたDeNAが序盤から圧倒し、4連勝で日本一を達成した。スポニチ本紙評論家の田淵幸一氏(78)が勝因に挙げたのはDeNA打線の爆発力に隠れた粘り強さ。3―0の3回2死満塁から森敬が奪った押し出し四球を象徴的なシーンに挙げた。(構成・鈴木 勝巳)
勢いと集中力。DeNAは5回に一挙7点を奪った。勢いそのままの大量得点だったが、大きかったのは3回の4点目だ。3回2死満塁で8番・森敬が選んだ押し出し四球。結果的に有原をKOする値千金の四球だった。
カウント3―1からの5球目。低めのカットボールは微妙な高さで、ボールとの判定でもおかしくなかった。しかし球審はストライク。フルカウントとなり、次はカットボールが高めに来た。これもギリギリの高さだったが、森敬はこの一球を見逃した。まさに“ナイスセン”。あのボールを見逃せるのは見事だ。
低めの微妙なコースがストライクと判定されたことで、打者としてはどうしても目線が低めに集中する。そこに高めが来ると、慌ててバットを出してしまってもおかしくない。森敬は体重を軸足の左足に乗せ、右足を踏み出した際も体重が残って前に突っ込まない。だからボールをより手元で見られる。「間」の取り方も、単純に「1、2の3」ではなく直球、変化球によって変えられる。22歳。今シリーズ期間中に打撃が急成長した。
5回の7得点も3四死球が絡んだ。森敬だけでなく、打者は打席での集中力が際立っていた。11点のうち8点が2死以降に奪ったもの。各選手の集中力が勢いを加速させた。
≪ソフトバンク・有原に痛手与えた桑原の内角打ち≫DeNA打線は第1戦で7回無得点だった有原を3回KO。前回は投手有利のカウントを許したが、この日は追い込まれる前の変化球を積極的に狙い打った。特に相手に痛手を与えたのは1―0の2回、桑原の打撃だ。
前回、DeNAの右打者は有原の内角に食い込むツーシームに苦しめられた。2死二、三塁での桑原の打席も初球は内角高めのツーシーム。出しかけたバットに当たってファウルになり、続く2球目も再び内角に。これを逃げ腰にならず、思い切り振り抜いた。桑原は外角球を右方向に打つのがうまい。捕手・甲斐の内角攻めを読んでいたと思うし、まさに狙い打ちだった。
内角の厳しい球は中途半端ではなく、恐れずに思い切って振ること。詰まっても安打になる。MVPでラッキーボーイとなった桑原の迷いのなさがもたらした2点打だった。
≪前回DeNA打線は有原に7回まで無得点≫DeNA打線は第1戦で有原に散発4安打に抑え込まれ、7回まで無得点に終わった。1番の桑原は有原に対し、3打数無安打。2打席目はツーシームなどで内角を攻められ、最後はフォークで遊ゴロに倒れた。
≪ソフトバンク4番・山川 4戦連続無安打で打線分断≫ソフトバンクは敵地での2連勝からまさかの4連敗。連勝で本拠地・福岡に戻り、油断したわけではもちろんないだろう。ただ第3戦のDeNA先発・東に打撃を狂わされた面はあったと思う。7回10安打ながら捉えきれず、空回りして1得点。続く第4戦は左腕ケイ、第5戦は右腕ジャクソンとタイプは違うがボールの強さが武器の投手が来て、打線はズレが大きくなった。
この日は3番・柳田が2ラン、5番・近藤が2安打も4番の山川が3打数無安打で2三振。3打席、計13球のうち直球は1球しか投げてもらえず、低めへの徹底した変化球攻めに遭った。DeNAは4番を4試合連続ノーヒットと沈黙させることで打線を分断し、リリーフ陣の差も見せつけて抑え込んだ。