練習メニューには「外内連係」と書かれていた。高知・安芸での阪神秋季キャンプ、第1クール最終日。守備練習の仕上げである。
外野ノックを打ち、打球を処理した外野手が二塁、三塁、本塁と各塁に送球する。内野手は外野手と塁上を結ぶ線上に中継(カット)に入る。必要ならばカットし、不要なら直接送球となる。普通の守備練習である。
ただし、わざわざ「外内連係」と書かれていたのにはわけがある。
なぜなら、今季限りで退任した前監督・岡田彰布時代は「全球カット」だった。短い距離でも内野手(カットマン)は必ずカットしていた。
ところが、この日行われていたのは、カットもあれば直接送球もあった。塁上で待ち受ける内野手や捕手の声に応じてカットマンは対応する。10月末に契約、早速チームに合流している新外国人ジーン・アルナエス(ブルージェイズ1A)も二塁手として「カット」「オッケー」の声を聞き分け、対応していた。
新監督・藤川球児が誕生して、岡田時代から目に見えて変わった光景の一つである。
前々監督の矢野燿大時代から1軍で外野守備を担当する外野守備兼走塁チーフコーチ・筒井壮に確認すると「実はキャンプ前に(藤川)監督に話しました」と内情が聞けた。「元の形に戻したい。カットなしがあってもいいですか?と聞くと、構わないとのことだったので、そうしています」
「全球カット」ではなくなるため、わざわざ「外内連係」として、練習メニューに組んだ。
こうした監督交代による変化について前任者の否定ととらえる風潮、あるいは偏見には嫌気が差す。筒井はこう話した。
「僕は岡田監督時代にカットへの送球を徹底したことで、外野手の送球は低く、強いボールになったと思います。実際、他球団のシートノックと比べて見ても、それは自信を持って言えます。いろんな監督のいい部分を継承していくことが大切だと考えています」
その通りだ。岡田が繰り返し言った「普通にやれ」の基本精神である。
思えば、この日は昨年、日本シリーズ優勝を決め、岡田が宙に舞った日本一記念日だった。手あかの付いた表現だが「岡田遺産」として、外野手の「低く強い球」は残っていた。 =敬称略= (編集委員)