DeNAが98年以来26年ぶりの「日本一」を達成。3位から頂点に昇りつめた「成り上がり」のシーズンを、スポーツニッポン担当記者は1年を通し見届けた。その舞台裏にはシーズン中に明かせなかった多くの秘話がある。ここでは、独自取材の秘話を5回連載で紹介する。第3回は、3試合連続無安打からの脱却を後押しした「魔曲」に絡む、山本祐大捕手(26)と知野直人内野手(25)の「打席登場曲」秘話。(構成、スポニチDeNA担当・大木 穂高)
「なあ直人。何か勢いがつく曲、ないか」。8月21日の本拠地中日19回戦が終わると、山本は知野に相談した。両者は同学年の親友。佐野がリーダーの「デスターシャ」軍団で、2年前佐野とともにポーズを初披露した「初期メン」同士だ。
正捕手に定着した山本は、19回戦終了時で打率・285。存在感を示していたが、この日2打数無安打に終わり今季初3試合連続無安打となった。冒頭の言葉は、責任感の強いマスクマンがバットでも悩み、発した。
ときは、本拠地で応援総長・角田信朗が漢臭さをアピールしまくった『横濱漢祭 2024』真っ最中。知野は考えた。「雰囲気に乗る!」
山本の打席登場曲は、「Bigfumi」の「Soar」。尊敬する阪神・梅野に敬意を表し同じ歌手を使用している。聞き手に温和な気持ちをもたらす柔らかい旋律だ。
ところが翌22日20回戦の2回初打席。山本の打席登場時に「漢(おとこ)~、漢~、漢が燃える~」と力強く汗臭い出ばやしが流れた。
角田信朗の代表曲の1つ、「よっしゃあ 漢唄」。歌のサビで「漢」を3度連呼する歌詞が“温和な男”山本の背中を後押しした。
するとどうだ。1―0の無死二、三塁。相手先発松葉が投じたカットボールを左翼席に4号3ラン。100点満点の結果が出た。
実は、知野は21日には牧の一部打席登場曲を「裏工作」し角田氏の持ち歌に変更していた。そして牧は3安打した。つまり、知野は親友たちへの「魔曲」提供者となっていた。息を吹き返した山本は3安打猛打賞。もちろん山本は知野に感謝した。「直人のおかげで打てた」。
だがこの話、続きがある。では打席登場曲変更で打てるのか。「漢祭」が終わり、次回の本拠地阪神3連戦。「魔曲」はなかった。知野は言う。「(リーグ終盤の)大事な時期に入ったし、ここからは、ね。それに牧も祐大も自分たちの実力で打っている」。
勢いをつけた「魔曲」提供は封印された。流れをわきまえた知野の判断にも、記者は「98年組」の強い絆を感じた。(第3回終了)