◇第49回社会人野球日本選手権準決勝 Honda2―0三菱重工East(2024年11月8日 京セラD)
Hondaは都市対抗覇者の三菱重工Eastを破り、準優勝した15年以来の決勝進出を決めた。入社2年目の上ノ山倫太朗(23)が、代打で2点目につながる安打を放った。Hondaは39年ぶり2度目の優勝を懸け、9日にトヨタ自動車と決勝を戦う。
上ノ山は覚悟を持って初球を振り抜いた。7回2死一塁、変化球を捉えた打球は一、二塁間を破り、右翼手の三塁への悪送球も絡んで貴重な2点目が生まれた。チームに貢献できたうれしさから、二塁の塁上で腕を突き上げた。
「普通に緊張しました。初球は絶対に自分のスイングをしようと思っていた」
昨年、関東学院大から投手として入社したが、社会人野球のレベルの高さを痛感。課題の制球を意識するあまり、打者に対して思うように腕が振れなくなっていった。
「対打者ではなくて、自分と戦っていた。そんな気持ちでマウンドに上がる資格はないなと思った」
今年2月のキャンプ中に多幡雄一監督に野手転向を直訴。「覚悟はあるのか」と問われ、その言葉を守って誰よりも練習した。打撃だけでなく、守備、走塁も求められる。普段の練習は最後まで残り、オフの日もグラウンドに出てバットを振り込んだ。
先輩の声も背中を押した。前日7日の準々決勝で、溶接モジュール職場の先輩でもある山本兼三外野手が大会史上2人目となる代打満塁本塁打を放った。
「兼三さんが打ったから、僕も頑張ろうって、きょう一緒に準備していたんですよ。ベンチで(初球から)“行けや!”と、声をかけてくれたんで勇気をもらいました」
期待に応える2大大会の初安打。多幡監督は「頑張っている人間が結果を残すのは本当にうれしいこと」と目を細めた。
上ノ山は対戦相手と同時に病気とも闘っている。中2の時に1型糖尿病を発症。多い時は1日7回のインスリン注射が欠かせないという。試合中の補食でプロテインを摂る時も例外ではない。
「岩田さんがいなかったら、野球を続けていなかったと思う」
同じ病気を抱えながら阪神で投手として活躍した岩田稔氏とはSNSを通じて交流。福井・啓新高の1学年先輩にあたる牧丈一郎投手が、岩田氏とチームメートということも縁になった。岩田氏とは大会初戦の1日に初めて直接対面し、激励を受けたことも力になった。
「今はチームを勝たせたい、日本一を取りたいっていうのが一番」と上ノ山。9日の決勝戦でも準備を尽くして出番を待つ。(石丸 泰士)