阪神からドラフト1位指名を受けたNTT西日本・伊原陵人投手(24)が14日、大阪市内の同社本社で入団交渉し、契約金1億円プラス出来高3000万円、年俸1600万円で仮契約を結んだ。家族が巨人ファンという環境で生まれ育った即戦力左腕だが、入団後に目指すのはGキラー。宿敵を苦しめた江夏豊、能見篤史という両左腕と同じ道を歩み、V奪回への一翼を担う。
頼もしい即戦力左腕が猛虎軍団に加わった。仮契約を終え、阪神の帽子をかぶった伊原はおもむろにつぶやいた。「似合っていますか?」。その後は誇らしげに、報道陣が構えるカメラの前でポージング。1年目から開幕1軍&シーズン完走を掲げる中、早速「伝統の一戦」での登板を熱望した。
「伝統の一戦と呼ばれる舞台に立って、そこで自分のピッチングができることが一番いい」
実は、父・伸さんが大の巨人ファン。幼少期に自宅のテレビに映っている野球の試合は、常に巨人戦だった。伊原自身はG党ではなかったが、思い出に残るのは04年から2年間在籍したタフィー・ローズ。バットを天井へ向けて突き上げるような独特の構えをモノマネしていたという。
「遠くに飛ばす外国人選手が好きで、ピッチャーより、同じ左打ちのローズ選手が好きでした」
運命のいたずらか、ドラフトで指名されたのは巨人の最大のライバルである阪神だった。目指すべきはGキラー。球団左腕では江夏豊の31勝が歴代最多で、近年では能見篤史が足かけ3年での8連勝を含む22勝を挙げた。江夏は王貞治、長嶋茂雄に真っ向勝負を挑み、能見は阿部慎之助との対戦に執念を燃やした。宿敵に立ち向かう姿こそ、阪神ファンが何よりも切望する姿。伊原も1年目から先人の歩んだ道を歩み、今季のセ・リーグ覇者の前に立ちはだかる。
「即戦力というところなので、期待をしてもらっている。すぐに結果を求められるので頑張りたい」
ケガをしない屈強な体が、来季から活躍を期待できる要因のひとつ。「体は大きくないけれど、下半身が強い。(ケガをしなければ)当然、1年目からということになると思う」。担当した熊野輝光スカウトは、迷うことなく太鼓判を押した。
「大きなケガはほとんどしたことがない。ここからもケガだけはないように、春のキャンプで投げられる体をつくっていきたい」
2月の声とともに始まる、新たな戦い。2年ぶりのV奪回を実現させるべく、巨人戦で白星を積み重ねる。(松本 航亮)
◇伊原 陵人(いはら・たかと)2000年(平12)8月7日生まれ、奈良県橿原市出身の24歳。小1から晩成フレンズで野球を始め、主に投手。八木中では軟式野球部。智弁学園では2年春から背番号11でベンチ入りし2年秋から背番号1。3年春に甲子園出場。大商大では2年秋に最優秀投手、3年春に最多勝、最優秀防御率でベストナインを受賞。NTT西日本では2年連続で都市対抗出場。1メートル70、77キロ。左投げ左打ち。
○…阪神投手の巨人戦通算勝利数最多は村山実の39勝で、左腕最多31勝の江夏豊は歴代2位。江夏は広島時代(78~80年)にも3勝しており、キャリア通算で34勝。阪神で22勝の能見篤史は、オリックス移籍後の21年に交流戦で1試合登板したが勝敗なしだった。なお、巨人戦勝利数のプロ野球記録は金田正一の65勝。50年から64年にかけて国鉄(現ヤクルト)で記録した。