【古野公喜のおもろい噺家み~つけた!】新進気鋭の成長株。「NHK新人落語大賞」の決勝に進出したのが噺家生活9年目の桂九ノ一(29)だ。6人のトップで登場し、惜しくも優勝を逃したものの「貴重な経験をさせていただきました」と語った。審査員の桂文珍(75)から楽屋で「面白かったで」と褒められ、「うれしかった」と自信をつけた。
子供の頃からお笑い好き。「ブラックマヨネーズさんが好きでした」。YouTubeで漫才のネタを完璧に覚えるほどファンだった。落語は高校2年時にOBの桂九雀(63)の一席を学校で聞いたぐらいで「こんなお笑いもあるんや」という程度。中高とも伯父からもらったベースで音楽にはまり、バンド活動に力を注いでいた。幼稚園の卒園文集では「お笑い芸人になる」と書いたが、落語家になるとは考えてもいなかった。
それが高校卒業後に一転して「落語家になろう」と思い立ち、天満天神繁昌亭で公演中の九雀を頼った。「なんか直感で。バイトの面接に行くような感じ」と苦笑い。「20歳を超えたら弟子は取らない」という持論の九雀。当時、19歳11カ月だった九ノ一には「断る理由がない」と弟子入りが許された。
師匠の自宅に住み込みで噺家生活はスタート。「靴のそろえ方から箸の持ち方まで、毎日怒られました。えらいところへ来たなと。でも、タテ社会が心地がよかった」とニンマリ。さらに「年季明けまで4年半は長かった。朝から晩まで落語のことだけ考えていた。一人の噺家、社会人としてここまでこられたのは師匠のおかげ」と感謝の気持ちを込めた。
4年半の住み込み生活で礼儀作法と20本のネタを教わった。事務所には所属せず、フリーで活動開始し、全国各地を転戦。今年から東京へ拠点をつくり、大阪との二重生活となり「年に360回ぐらいは高座に上がります」。小さな会から、大きなホールも経験した。特に地方公演は楽しみで、行くとまず散髪へ。「街のことを知って、枕のネタに」。北九州・八幡での高座前には地元の理髪店でカット。眠ってしまい、目覚めると「バチッとそり込みが入ってた」と笑い話も披露した。
12月6日に「イノゲート大阪」で春風亭昇咲(32)と「はじめての落語」を開催予定。「とにかく売れたい。テレビに出たい。全国で独演会を開きたい」と野望を抱いている。 (演芸担当)