プレミアリーグで13位と苦戦するマンチェスター・ユナイテッドにルベン・アモリン新監督(39)が就任した。13年にアレックス・ファーガソン氏(82)が退任してから暫定監督を除けば6人目。名将の引退後はリーグ優勝から遠ざかってきたイングランドの名門を、ポルトガル出身の若手指揮官が再建できるか。
新天地でアモリン監督が第一声を発した。
「クラブを本来の場所に戻すために全力を尽くす。我々は成功すると強く信じている」
20~21年シーズンにスポルティングに19季ぶりのリーグ優勝をもたらすなど攻撃サッカーでポルトガルの強豪を再建。リバプールやマンチェスターC、バルセロナなどでも監督候補と報じられてきた新進気鋭の39歳が初の欧州5大リーグ参戦でマンチェスターUの指揮を執る。
今季ポルトガル1部では開幕11連勝。連動性が高い3バックで結果を残してきた新指揮官への期待は高い。地元メディアでは新システムでの先発予想が盛んになっているが、アモリン監督は「3―4―3や4―3―3などシステムの問題ではなく、選手の持ち味をどう生かすか。最も大切なのはかつてチームにあった原則、アイデンティティーを確立すること」と力を込めた。
問題は結果を出すまでに許される猶予期間だ。最後までスタイルを確立できなかったとして批判を浴びたテンハグ前監督は昨季、就任2年目のFA杯決勝で宿敵マンチェスター・シティーを破って優勝を果たした一方でリーグ戦では92~93年のプレミアリーグ移行後では最悪の8位。クラブが監督交代に失敗した末に消極的な続投となったが、今季は14位と出遅れた開幕9試合の時点で解任された。
27季にわたってチームを率いたファーガソン監督が退いた12~13年シーズンを最後にリーグ優勝は一度もない。リーグ13回や欧州チャンピオンズリーグ(CL)2回など38ものタイトルをもたらした名将の後任だけにファンの要求は高く、他クラブで欧州CLを制覇したファンハール監督(14~16年)も2季、モウリーニョ監督(16~18年)も2季半でいずれもカップ戦で優勝しながら解任された。
アモリン監督の契約は27年までだが、期待を裏切れば早期解任の可能性は常にある。王座奪回に欠かせない戦術の浸透、チームの熟成には時間がかかる一方で周囲を納得させる目先の結果も必要。指揮官も「時間が必要と分かっている。時間を稼がないと。それは試合に勝つということ。しかし、私にとって最も重要なのはアイデンティティーなんだ」と複雑な胸中を明かす。
就任決定後の11月5日、スポルティングは欧州CLでマンチェスターCと対戦した。アモリン監督は前日会見でマンUファンに触れ「ネガティブな結果になれば期待は下がるだろうし、勝てば“新しいファーガソンがやってくる”と思われるだろう」と話していた中で4―1と快勝。ファンにとって最も目障りなチームを倒し、結果的に自身に対するハードルを上げてしまったが、敵将グアルディオラ監督と自身を比較し「彼は現在のところ、はるかに優れているが、私は新しいクラブを強く信じている。低いレベルから始めて改善していくよ」と期待に応える姿勢を示した。
地元メディアで、飲めば必ず死に至る「毒の杯」とも称されるマンチェスターU指揮官の座。アモリン監督の初陣は24日にイプスウィッチと戦うリーグ戦になる。
《“解任報道”も影響力浮き彫り》
マンチェスターUで今や神格化されている感があるファーガソン元監督だが、実は自身の後任より長い猶予期間を与えられていた。86~87年シーズン途中から指揮を執り、リーグ戦の成績は11位、2位、11位と推移。13位に終わった4年目には解任論も浮上したがFA杯で初タイトルを得て首がつながった。
リーグ戦初優勝は就任7年目で旧1部からプレミア移行1年目の92~93年。26季ぶり8度目の栄冠だった。トップリーグ優勝回数は71年の時点でアーセナルが8度で最多だったが、リバプールが73年から18年間で11度と躍進。しかし、ファーガソン監督の下で93年から21年間で13度と数字を伸ばしたマンチェスターUが通算20でリバプール19、アーセナル13、マンチェスターC10をリードしている。
マンUを文字通り頂点に導き、ナイトの称号を授けられた「サー・アレックス」は退任後クラブのアンバサダーを務めているが最近になって今季での契約打ち切りが報じられた。2月からクラブの共同オーナーとして運営の実権を握った英化学メーカー「INEOS」の実業家ラトクリフ氏を中心に250人の役職が削減される組織改編が行われ、年間216万ポンド(約4億2000万円)を受け取っているレジェンドも対象になったという。
これにかつての教え子が猛反発。元フランス代表FWカントナ氏は「何というリスペクトの欠如。スキャンダラスだ。サー・アレックスは永遠に私のボスだ!」、元イングランド代表DFファーディナンド氏も「サー・アレックスが外されるなら誰も安全ではない」と訴え、ファーガソン氏の影響力が改めて浮き彫りになった。
◇ルベン・アモリン 1985年1月27日生まれ、ポルトガル・リスボン出身の39歳。現役時代はMFで主にベレネンセスとベンフィカで活躍。ポルトガル代表では出場14試合無得点ながらW杯には10、14年の2大会に出場。17年に引退して指導者になり、19年12月にブラガの監督に就任してポルトガル・リーグ杯優勝。20年3月にスポルティングの監督に就任して21、24年にリーグ優勝。21、22年にリーグ杯優勝。