5人組ヴィジュアル系ロックバンド「RAZOR」(レザー)が、結成8周年を記念した全国ツアーを精力的に巡っている。先月リリースされたベスト盤「残光」には、リード曲「AfterGlow」をはじめ、RAZORの歴史と現在が凝縮された全12曲を収録。バンドとの向き合い方やツアー中のエピソード、そして未来へのビジョンを見つめるメンバーに迫るソロインタビュー連載をお届けする。5回目はボーカルの猟牙です。
――10月15日にベスト盤「残光」が発売されましたが、リリースから1ヶ月近く経った今、このアルバムについてどのように感じていますか?
猟牙「僕らは結成して8年くらい経ち、ライブの本数も多いんですけど、このベスト盤に入った曲たちはほとんどがずっとライブで演奏してきた曲なんです。なので、 “満を持して出した”という感覚はあまりなくて、不思議な感じなんですよね。今までライブでやり続けてきた曲が、改めてベストとして形になったという感覚です」
――これまでに出してきた曲の中で、今回のツアーで特にファンの反応が良かったり、新しい発見があった曲はありますか?
猟牙「たくさんあるんですが、特に『UNION』という曲が印象的でした。この曲はコロナ禍でリリースされたので、お客さんが一切声を出せない状況下でのライブが続きました。もともとコールアンドレスポンスで、お客さんも声を出して一緒に歌うような曲なんですが、リリース当時はそれが叶わなかったんです。でも今では、堂々と声を出せるような状況になって、出した当時に想定していた形でパフォーマンスできるようになったと感じています。2年前に出した曲ですが、ようやく本来の形で届けられるようになったな、と」
――ベスト盤の収録曲の中で、「AfterGlow」は深夜の音楽番組で流れるなど多くの方の耳に届いています。この曲について特にこだわった点はありますか?
猟牙「この曲は途中でラップっぽいパートが入っていて、レコーディングではメロディ部分とラップ部分を分けて録ったんですけど、いざライブで通して歌うとめちゃくちゃ疲れるんです。歌うのが大変な曲なんです(笑)1人で全部歌うのは息継ぎも大変なので、ギターの剣(つるぎ)も一緒にサビを歌ってくれています。せっかくだからツインボーカルっぽくやろうって。1人で歌うの大変だわ!って言って」
――これまでにもツインボーカルっぽい曲はありましたか?
猟牙「よく剣と一緒にレコーディングするんですが、コーラスで参加してくれることがあるんです。そういう時に“どうせならライブで一緒に歌おう”って話し合っていくうちに、ライブで剣が歌う部分も増えて、結果としてツインボーカル風の曲が多くなりました」
――テレビでオンエアされた反響はいかがですか?
猟牙「面白いもんで、ファンの子たちはタイアップで流れるってわかってて聞くことが多いんですけど、意外と地元の友達とかファンじゃない人からの反響が大きいですね。“テレビ見てたら突然流れてきたよ”って。テレビの影響力ってやっぱりすごいなって実感しますね」
――猟牙さんは10月31日にSNSで「現代社会とヴィジュアル系」というテーマで強い思いをつづられていましたね。
猟牙「僕がヴィジュアル系に出会った当時は、SNSはもちろん携帯なんてなかったんですよね。テレビしか情報源がなくて。そんな時にメイクした男の人たちがテレビに出ているのを見ていたら、言葉をあまり発しないし、ミステリアスな雰囲気で謎めいていて、それがすごくかっこいいと感じたんです」
――その当時から時代を経ていかがでしょうか。
猟牙「ヴィジュアル系って、本来はベールに包まれた存在で、そこがお客さんをひきつける魅力の一つだったと思うんです。でもだんだん時代が変わってきてネットが普及し出すと、普通にSNSを使ってファンと積極的にコミュニケーションをとるようになってきました。僕もめちゃくちゃ活用している人間です」
――バンドマンとの距離が近くなったということでしょうか。
猟牙「中には、身近な兄ちゃんがメイクしてやっているようなバンドもあります。それ自体を否定するつもりは全くありません。時代は変わったなと。ただ、今も『ヴィジュアル系という偏見で見るのではなく熱い音楽をやってるんだ!』という矜持を持ったアーティストがいっぱいいます。その気持ち、すごくわかります。かたや、僕が憧れていたヴィジュアル系って『俺らの音楽を聞いてくれ』なんて口にしなかったよなとも感じるんです。だから、ヴィジュアル系の様式美が変わったなって。自分もヴィジュアル系でありながらSNSを使いまくってるので、その皮肉とか面白さをポストに込めてみました」
――自身のSNSでは「サイゼリヤ」の話もよくされてますよね?
猟牙「サイゼリヤが大好きなんです(笑)しょっちゅう行ってます。サイゼリヤの素晴らしさって十分、世に知られていると思うんですけど、もっとその魅力を広めたいなと思って。ギターの剣さんもイタリアンが好きということをSNSでつぶやいてたので、サイゼリヤについて絡んだら、ちょっとした論争みたいになったんです(笑)。高級なイタリアンもいいけど、結局サイゼリヤが一番うまいぞ!って伝えたいですね」
――ぜひこれからも発信を楽しみにしています。猟牙さんにとって、この世界に入るきっかけとなったバンドは何かあったのでしょうか?
猟牙「ヴィジュアル系に最初に触れたのはLUNA SEAです。でもさらにルーツを掘り下げてみると、ヴィジュアル系という言葉が生まれる前から、母親が氷室京介さんのファンでBOOWYのビデオがよく流れていましたし、米米CLUBのカールスモーキー石井さんがメイクをしている姿を見てたりしたので、メイクをする男の人が歌うのは自分の中ではちっちゃい頃からスタンダードだったんです。そこからヴィジュアル系にのめり込むのは自然な流れで、ズブズブとその世界に溺れていき、気がついたら学校にも行かずバンドをやりたいってなりました」
――最初からボーカルだったんですか。
猟牙「楽器は全然わからなくて、とにかくバンドをやりたい気持ちが強かったので、ボーカル以外の選択肢がありませんでした」
――そこから一貫してボーカルとしてここまで活動を続けてこられたのは、本当に巡り合わせのおかげですね。
猟牙「本当にそうですね。いろんな巡り合わせに助けられて、なんとか続けてこれたと思います」
――8周年のツアー途中ですが、これまでのステージやツアー先で心が動かされたエピソードはありますか?
猟牙「ライブ前の楽屋でメンバーとひたすらバカな話をして爆笑していることが多いんですよ。ライブではスイッチを入れ替えて真剣にやりますが、楽屋ではしょうもない話をしながらゲラゲラ笑い合ってます。常に爆笑してますね。僕、ライブ前ってめちゃくちゃ緊張するんです。だからそれをほぐすためにもいい時間になってます」
――最近の楽屋での笑い話は何かありますか?
猟牙「うーん…正直、ここで言える話だとないな(笑)。でも本当にライブ直前まで、ヴィジュアル系とは思えないぐらいくだらない話で盛り上がってます」
――11月30日に結成8周年を迎えますが、これまでの活動の中で実現できたことについて教えてください。
猟牙「そうですね、RAZORでここ数年、いろいろな場面に出させていただくことが増えました。今日こうやって新聞社でインタビューを受けられているのも、地に足のついた活動をしてきたからこそだと思います。ヴィジュアル系が一世を風靡した時代とは違いますから。それでも、こうしてメディアに出させてもらえるのは、やっぱりバンドを続けてきてよかったなと感じます。普通の生活を選んでいたら味わえない貴重な経験をさせてもらっています」
――ツアーファイナルは恵比寿LIQUIDROOMですね。
猟牙「自分がガキの頃は別の場所にあったんですが憧れていた会場なので、そこでやれるようになったんだなあという漠然とした不思議な感覚はあります」
――そのステージに向けて、意気込みを教えてください。
猟牙「今、ちょうどツアーの真っ最中なので、セットリストや具体的な内容はまだ固まっていません。各地のファンの熱意を感じながら、ファイナルに向けていろいろと考えていこうと思っています。感度を高めて、ファイナルに向けてツアーを続けていきたいですね」
――ありがとうございます。最後に、猟牙さんご自身の目標とRAZORの今後のビジョンについてお聞かせください。
猟牙「昔はヴィジュアル系の専門誌やテレビ番組がありましたが、今はそういったメディアが減ってしまったので、僕たちもSNSなどを活用して多くの人に知ってもらうためにひたすら頑張ってます。そして、バンドとしての目標はまず、10年を目指したい。惰性で続けるんじゃなく10年の節目を迎えたいです。もちろん、大きな会場でやりたいという目標もありますが、今はツアー中で、1本1本のライブがルーティーンにならないように、飽きずに全力で楽しむことが大切だと思っています。この熱量を持ったまま、10年を迎えられたら最高ですね」