プレミア12では決勝で台湾に敗れて準優勝に終わった侍ジャパン。最後は残念な結果に終わったが、若い選手たちが貴重な経験を積んだ。その一人が追加招集ながら初めて日の丸を背負った巨人・井上温大投手(23)。初戦のオーストラリア戦で先発して6回途中2失点で勝ち投手になるなど、大会3勝を挙げた。
それでも若き左腕には、悔しさが残る大会になったようだ。「先頭を真っすぐで押せたこともあって、勢いで行っちゃったなって…。投げる怖さを味わいました」。スーパーラウンドの第2戦だったベネズエラ戦。3―2の6回に2番手で登板し、先頭のCJ・ペレスを自慢の直球で空振り三振に斬った。今季8勝と飛躍を遂げた23歳が上々の滑り出し。だが、ここから捕まった。H・ロドリゲスに、この日最速の151キロを左前へはじき返されると、続くCE・ペレスに129キロスライダーを左翼席に運ばれた。逆転2ラン。ぼう然と着弾した場所を見つめた。
猛省していたのは、さらにこの後だ。「打たれた後が大事なのに、ずるずる行ってしまった。あそこで止められないのがまだまだだなって」。2死までこぎ着けたものの、そこから四球を与え、さらに連打を浴びた。最後のアウトは、送球間に飛び出した走者を挟殺プレーで取ったもの。「打たれたままで終わっている。あのまま行ったら僕のせいで負けるところだった」と肩を落とした。牧の満塁弾などで逆転勝ちに「心が救われた。喜びとかよりもホッとした」と振り返った。
これ以上ない経験となった。先発した初戦や、2度目の登板となったドミニカ共和国戦では直球で押し込み「自信になった」と手応えを得た。約1カ月の代表期間中に、国内の一流選手たちと交流。「ここに来る人たちは、みんな自分を持っている」と実感していた。同じ左腕でチェンジアップを武器にする隅田に質問するなど、有意義な時間を過ごした。勉強をする中で「中途半端に手を出したら、全部がダメになる。まずは今ある球種を磨きます」と言った。
昨季は2軍で圧倒的な成績を残すも、1軍では苦しんだ。今季は1軍の壁を乗り越えて8勝をマークしたが「去年と同じ思いをここでしました…」と悔しがる。新たな壁にぶつかったのは、侍ジャパンに選ばれたからこそ。井上なら、必ず乗り越えられる。(記者コラム・小野寺 大)