大学卒業後はNSC東京校に入り、少しずつ人気芸人への道を上り始めた囲碁将棋。賞レースではM-1グランプリこそ決勝の舞台に上がれなかったが、「THE MANZAI」「THE SECOND」でも大活躍をしてみせた。そんな2人が思い描く将来像とは?
【囲碁将棋インタビュー(2)】
◆◆ ぼくらは例えるならローストビーフのような低温料理 ◆◆
―大学在学中にインディーズの活動をされていたということですが、そこからNSC入学に舵を切られたんですね。
文田「マヂラブの野田とはその頃からの付き合いなんですが、自分たちの友達や知り合いを呼んでも、客席は10人くらいなんですよ。これからプロってあり得なくない?となって。それで、とりあえずNSCに行ってみようかと思いましたね」
根建「ここでダメだったら辞めようという感じでした。でも、今はお笑いサークルとかいっぱいあってレベルも上がっているけど、昔は舞台に立ったこともない人間がいっぱいNSCにいて。その点、ぼくらはお客さんの前に立っているんで。アドバンテージがあるんです。だから成績は上位でしたね」
文田「いま考えたら、あの頃はめっちゃ楽しかったです。恋愛もありつつ、青春しつつ。学校の中でもトップの方だったし。でも卒業したら一番下からでしたけどね」
―そういう意味では卒業後はやはり壁を感じられたりされたんでしょうか?
根建「うーん、それはあまりなかったかな。周囲はめっちゃ苦労してたし、厳しかったと思います。ハリセンボンとかでも、ちっちゃいライブのオーディションとかに負けて舞台袖で泣いてるのを見たこともあるし」
文田「ぼくらは壁にぶつかったりはあまりしてないんです。でも、逆に急勾配もないんです。薄くほぼ直線みたいな感じだけど一応右肩上がりで。優良な大手株みたいな。ローストビーフみたいな低温料理」
根建「爆上がりもないけど爆下がりもない。これがいいのかどうかわからないですが(笑い)」
文田「それにね、けっこう他の芸人さんによく評価されるんですけど、ぼくらみたいなスタイル、しゃべくりというか、あまり東京にいないんです。みんな、自分と似ている芸人さんをホメると自分が負けたような感覚になるけど、剛速球投手たちがナックルボーラーをホメるみたいに、ぼくらを評価してくれるんですよね」
―だけど、もちろんナックルボールを投げる技術があるから評価されると思うのですが(笑い)。そんな中で、今のスタイルになったきっかけはあったのでしょうか?
◆◆ 心の師匠はポイズンガールバンド! ◆◆
文田「ポイズンガールバンドさんなんですよ。しゃべくりってテンポ良くて、キレのある漫才じゃないですか。でも、ポイズンさんのテンポ遅くて、何言ってるかよくわかんない感じに衝撃を受けちゃったんです。しかも、当時はまだこんなにSNSとかなくて、M-1に出られる前だったから、ぼくら勝手に見つけた!と思って。影響そのままでNSCでネタを披露したら、講師の人に“あ、ポイズンね”って言われました(笑い)」
根建「業界の人は知ってますよね(笑い)。ただ、当時はポイズンさんのネタはM-1でウケなかったけど、今だったら違うと思います。オズワルドとかエバースとか、影響を感じさせるコンビは多いですから」
―確かにそうですね。でも、囲碁将棋さんもしっかり自分たちの世界観をつくってこられたとは思うのですが、今後はどんな将来像を描かれているのでしょうか?
根建「何気にいま満足しちゃってるので(笑い)。現状維持ですかねえ」
―40代の芸人さんで現状維持と答えられたのは初めてかもです(笑い)。
根建「(笑い)でも、現状維持するのも意外と難しいじゃないですか。割とその感覚でずっと来てるんです。むしろ、このまま行くと現状維持できない、みたいな危機感を持ってるくらいで」
文田「ぼく、いつもお客さんには言ってるんですけど、今は芸人辞めて喫茶店作ったときに毎日通ってくれるお客さんをつくってる状態って。なんならネズミ講(笑い)。文田さんが売ってくれる化粧品なら買います!っていうお客さんづくりに精を出してます(笑い)。でもね、コア層の人たちはぼくたちのガソリンになってくれるんです。やっぱ、そういう人がいるからこそライブもできるし、イベントもできる全国ツアーもできるんですよね」
根建「だからめっちゃ大事にしてます。賞レースだって、こういう人たちが出てほしいと思ってくれているから出ているところもあるんです。ぼくら、この人たちがいないと動かないですもん」
―12月1日にはお笑いの聖地、なんばグランド花月(NGK)でも単独ライブがあります。
文田「前回が完売できなかったので今年も、となったんですが、今年はもっと席が空きそうな…。リベンジ失敗状態です。でもね、完売してないからこういう取材やテレビ、ラジオも出ることができるので、売れ残ってて良かったなと、実は本気で思っています」=終わり
【取材を終えて】 YouTubeチャンネル「絶景漫才」がとてもユニークだ。日本各地の観光地や景勝地に出かけ、そこで漫才をするが、後ろの風景に目を奪われ、まったくネタが入ってこない。「コロナ禍の時の企画ですが、カメラマンの趣味で今もやってます」と話す2人。漫才なんて世界の中にいたらちっぽけなもの、と言わんばかりだ。
ギラギラしたところがなく、ひょうひょうとした雰囲気。上昇志向は特になく、とにかく自分たちのことを愛してくれる人たちが少しでもいたら、それで良し。生き馬の目を抜くような芸能界では実に達観している。
コンビ名の由来は高校時代に所属していた部の名前。このへんも何とも適当このうえないが、静かな心で深い洞察力を問われる囲碁と将棋という競技。何やら2人にぴったりな名前のように思えてきた。(江良 真)
◇囲碁将棋単独ライブ「曼珠沙華」大阪公演 12月1日、なんばグランド花月(19時半開演) 東京公演12月28日は完売。問い合わせはFANYチケット 電話0570-550-100。