侍ジャパン前監督で日本ハム・栗山英樹チーフ・ベースボール・オフィサー(CBO=63)による連載「自然からのたより」は、落ち葉が教えてくれる自然の教訓について。自宅のある北海道の栗の樹ファームでは、冬の到来を前に落ち葉がじゅうたんのように敷き詰められる。何万、何百万枚という落ち葉はやがて土に返り、木を育て、水を育む。確かな使命を持つ一枚一枚の葉っぱが、今の時代に人がなすべきことを教えてくれる。
本格的な冬の到来を前に、栗の樹ファームには素晴らしい風景が広がる。赤く染まった葉っぱが落ち、地面を覆い尽くす。まるで芸術かと思わせる落ち葉のじゅうたんだ。カサカサと音を立て、真っ赤なじゅうたんの上を散歩するのが毎秋の楽しみとなっている。
愛犬ジョーJrに朝早く起こされ、冷たくなった空気に季節を感じながら、1時間ほど一緒に歩く。自然を肌で感じられる時間だ。何とも言えない穏やかな時の中で、ふと踏みしめた落ち葉に感動させられた。「葉っぱってすげーなあ」と。その感動の中には、大きな「学び」があった。
一国は一人をもって 興り
一人をもって滅ぶ
これは中国の文人の蘇老泉の言葉だ。国は一人の政治家や指導者によって栄え、一人によって滅びる、という意味で、企業や組織に置き換えて教訓とすることもある。一人によって国ができるし、一人によって滅んでしまう。この意識を昨年のWBCで侍ジャパン全員に持ってもらいたいと思い、伝えさせてもらった。「オレがやらなきゃ誰がやる」。その気持ちの重なりが欲しくて「侍ジャパンの一員ではなく、自分のチーム、自分が侍ジャパンなんだ」とメッセージを送った。一人の力は小さい。でも、覚悟がないと何も起こらない。全員の覚悟の結集が世界一だった。
何十万枚、何百万枚の葉っぱは一枚たりとも手を抜かない。枯れて地面に落ち、雪に埋もれ、いずれ土に返っていく。その土が木を育て、水を育み、青く茂った葉っぱは酸素を生み、やがて地面に落ちる。その繰り返しは尽きない。まさに地球のベースとも言える自然のサイクル。一枚一枚が使命を全うする葉っぱを見て思った。自分一人くらいいいだろうという甘い考えは、自然の中にはないんだと。
人の世界も同じではないだろうか。自分一人くらいはビニール袋を道ばたに捨ててもいいだろう、という思いがやがては国を滅ぼしてしまう。落ち葉がそう訴えかけていた。
▽蘇老泉(そろうせん) 中国の文人、蘇洵(そじゅん)の別称。蘇洵は唐宋八大家の一人で子の蘇軾(そしょく)、蘇轍(そてつ)とともに「三蘇」と呼ばれる。老翁井という泉の近くに亭を結んだことから「老泉」と称された。27歳にして奮起し、中断していた勉学に励んだ晩学の人物とも言われる。「一国は一人をもって興り 一人をもって滅ぶ」という言葉は蘇洵の「管仲論」にある。
▽落ち葉のサイクル 地面に落ちた葉は、土壌の生物によって食べられ、有機物となって排出される。これを土壌の微生物が無機物へ分解し、腐葉土となって植物の栄養素として根から吸収される。これが自然界の物質循環で、樹木の根元に落ちて積もった落ち葉は、土の乾燥を防ぐとともに保水力を高めたり、越冬する昆虫などの棲みかとなる役目も果たしている。