◇「光る君へ」脚本・大石静氏インタビュー(2)
女優の吉高由里子(36)が主演を務め、紫式部/まひろ役に挑んできたNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜後8・00)の放送も残り2回。最高権力者・藤原道長(柄本佑)との40年にわたる“恋路”が視聴者を魅了し続けている。脚本の大石静氏(73)に恋愛パートの作劇の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と」などの名作を生み続ける大石氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となった。
身分の差に阻まれながら、時に離れることはあっても三郎時代から“特別な絆”は途切れなかった“道まひ”“さぶまひ”。「源氏物語」は2人の“共同作業”から生まれ、虚無感に苛まれても“川辺の誓い”で「生きること」を約束。幻想的な廃邸や近江・石山寺を舞台にした美しく儚いラブシーンも、SNS上で反響を呼んだ。
大石氏は「何より、吉高さんと柄本さんの役者としての宿命的な相性のよさが、この作品を支えてくれたと思います。ラブシーンは少なかったですが、本当に印象的だったのは、私の台詞もいいですが、チーフの中島(由貴)監督をはじめ、黛(りんたろう)監督、原(英輔)監督たち演出陣の力は大きいと思っています。みんなで力を合わせて作ったドラマという気がします」と要因を分析。キャスト・スタッフを絶賛した。
夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)ではなく、まひろと道長の間に藤原賢子(南沙良)が生まれるドラマオリジナルの設定が、劇的な展開に拍車。正妻・源倫子(黒木華)との三角関係に視聴者はハラハラドキドキ、今作最大の関心事の一つとなったが、大石氏は「そもそも不義密通が『源氏物語』の重要な要素になっているので、書き手(まひろ)も密通している方がいいのではないか、と(笑)。割と早々に思いついて、本打ち(台本打ち合わせ)で話し合ってきました」と狙いを明かした。
「源氏物語」は3部構成。若き主人公・光源氏は義理の母・藤壺と不義密通(第1部)。栄華を極めたものの、今度は自身の妻・女三の宮に不義密通されてしまう(第2部)。相手は柏木(光源氏の親友・頭の中将の息子)。“罪と罰”“因果応報”の物語でもある。光源氏亡き後の第3部、浮舟(光源氏の弟・宇治八の宮の三女)は薫(光源氏の“息子”)と、そのライバル・匂宮との三角関係に悩まされる。
ただ、戦国大河的な派手さがないことを補うために、ラブストーリー要素を前面に打ち出したかと言えば「あくまで主人公(紫式部)の人生や心の動きを追っていった結果で、いつもの大河よりは多くなったかもしれませんけど。“合戦シーンが少ない分、ラブシーンを増やそう”といった“バーターの関係”は全然なかったですね」と制作統括の内田ゆきチーフ・プロデューサー。
大石氏も「台本のページ数で言えば、まひろと道長のシーンは全体の5分の1もありません。ほとんどが内裏の政争を描いています。だけど、吉高さんと柄本さんが醸し出す風情がたまらなく素敵なので、“ラブストーリー大河”と言われるようになったのだと思います。打ち合わせを始めた頃、中島監督が“今までと違う大河を目指したい。毎回泣けるような作品にしたい”と言ったんです。それは無理だろうと思いましたが、結局、1回おきくらいには泣ける仕上がりになったんじゃないでしょうか」と手応えを示した。
道長は出家。まひろは異国の海賊による九州への侵攻「刀伊の入寇」(寛仁3年、1019年)に巻き込まれた。ソウルメイトの“終着駅”は果たして。
=インタビュー(3)に続く=