◇三菱電機杯第79回毎日甲子園ボウル 立命大45―35法大(2024年12月15日 甲子園球場)
力強い両腕に、心ゆくまで体を預けた。9年ぶりの学生日本一を実感する歓喜の胴上げ。就任1年目の悲願達成に、立命大・高橋健太郎監督は、ようやく表情を緩めた。
「しんどいのを乗り越えた選手に感謝。あっぱれです」
学生日本一の称号は、高橋監督の「改革」なくして語れない。母校に請われ、20年近く勤めた関西電力を退職して今年1月に就任。手始めに実施したアンケートで、自己肯定感の低い選手があまりに多いことに驚いた。
「姿勢が受け身になってしまっていて、チームに対する意見もなければ、自分をさらけ出すこともない。我々の頃のレベルに引き上げるには2、3年かかると思った」
選手同士が好き勝手にアイディアを出し、とりあえずトライした現役時代。自由闊達な空気が3、4年時に甲子園ボウルを連覇する原動力になっていた。「アニマル・リッツ」とは、単にフィジカルの強さや、プレーの激しさを表現するものではない。フィールドで100%を発揮するための、スピリッツも指していた。
指揮官が最初に励行したのは、「フィジカルタッチ」だった。練習の合間、合間で、ハイタッチ、グータッチなどで絶えず選手同士がスキンシップを図る。トレーニングの際には大音量で音楽を流して、気持ちを高めた。その一方で、厳しさも忘れない。春先、5名の選手にスタッフへの転向を命じ、2人は受け入れ、3人は部を去った。
「パンサーズっていうのは社会の縮図。一人一人が責任を果たさないといけないし、結果が残せないと、ポジションもなくなってしまう。(選手でいることを)当たり前の思って、そこに浸っている状況を変えるために実行しました」
自他ともに認める「陽キャ」は、常に選手とのコミュニケーションを図り、チーム全体に心を配った。今季唯一の黒星を喫した関大戦以降、サイドラインの中央で戦況を見つめる不動の采配から、常に動き回り、「ナイスプレー」「ケガ大丈夫か」と声を掛けるスタイルに転換したのも、その象徴。「こっちの方が自分らしいかな、と思って」。才能に恵まれた選手が集まり、努力も続ける集団に唯一欠けていたピースが埋まり、立命大は学生王者に返り咲いた。