ソフトバンクから国内フリーエージェント(FA)権を行使した甲斐拓也捕手(32)が巨人と契約合意したことが17日、発表された。5年以上の大型契約で総額20億円超の条件とみられる。強い向上心で育成選手から球界屈指の捕手へ上り詰めた男は自問自答を繰り返し、悩み抜いた末に決断した。ソフトバンク球団を通じて発表したコメントには古巣への深い感謝、新天地でさらに成長する決意を込めた。
大きな決断をした甲斐は、ソフトバンク球団を通じて発表したコメントに感謝の思いを込めた。
「今の自分があるのは間違いなくホークスに育てていただいたおかげです。心より感謝していますし、今回も素晴らしい提示をいただき、本当にありがたい気持ちでいっぱいです」
大分・楊志館から10年育成ドラフト6位で入団。最後方からのスタートだったが、努力に努力を重ねて正捕手の座をつかんだ。“甲斐キャノン”と称される強肩など高い守備力で今季を含めて7度のゴールデングラブ賞を獲得。昨年WBCで優勝に貢献するなど、球界を代表する存在にまでなった。
愛着が深いソフトバンク、巨人からラブコールを送られ、悩みに悩み抜いた。「ホークスで過ごした時間の全てが自分の財産であり、かけがえのない経験です。こうしたホークスでの全ての経験を思い返すたびに、本当にホークスを離れていいのか、自問自答を繰り返しました」
出した答えは新天地での挑戦だった。これまでも原動力となってきた強い向上心が移籍を選択させた。「今回、新たな経験をすることで野球選手としての自分をもっと高めたいという心境に至り、移籍することを決めました」。同じ捕手出身の巨人・阿部監督の言葉も響いたようだ。
かねて「野球自体が時代で変わってきている。常に新しい自分を見つけていかないといけない」と口にしている。考え方のアップデートを心がけ、今季は対戦相手の分析により多くの時間を割いた。カード前に約4時間、各試合後に2時間ほどを費やしてデータを分析するなど、新しいことに積極的に取り組んでいる。今回はさらに進化するために新天地での挑戦の道を選ぶことになった。
感謝のメッセージは熱い声援を送ってくれたファン、支えてくれたスタッフ、チームメート、小久保監督ら首脳陣、王貞治球団会長らフロント陣へも送られた。「離れてしまうことは本当につらいのですが、セ・リーグで新たな挑戦を始めたいと思います」。努力の男はまだまだ歩みは止めない。(木下 大一)
◇甲斐 拓也(かい・たくや) 1992年(平4)11月5日生まれ、大分県出身の32歳。楊志館から10年育成ドラフト6位でソフトバンク入団。14年に支配下昇格。17年に正捕手となるとベストナイン、ゴールデングラブ賞を初受賞。同年から20年のシリーズV4に貢献し18年はMVP。今季8月31日のロッテ戦では育成ドラフト出身では初の通算1000試合出場を達成した。日本代表としては21年東京五輪と23年WBCで優勝。1メートル70、87キロ、右投げ右打ち。
≪三笠杉彦GM「ダメージが…」≫三笠杉彦GMは甲斐の流出について「ダメージがないといえばうそにになります。こういう結果になりましたので、どう我々でカバーをしていくか」と話した。甲斐の推定年俸は2億1000万円でBランクとみられるため、巨人からは金銭か人的補償を得ることになる。現状の方針は未定で「プロテクトリスト次第だと思いますので。情報をそろえて検討したいと思います」と話した。