積み重ねた経験は、無駄ではなかった。今秋の日本選手権。NTT西日本・大江克哉投手(28)が、初戦のHonda戦で自己最速を1キロ更新する152キロをマークした。試合には敗れたが、4回途中から2番手として救援し2回2/3を1安打無失点。入社6年目のシーズン最終戦を最高の形で終えた。
「ここ数年、中継ぎをやってきて、ピンチでいく想定はできていたので、練習の成果が出せたと思います。球速はたまたまですが、試合の中での最高のパフォーマンスは発揮できたと思います」
花園大から19年に入社。今季はファウルを取れる直球をテーマに腕を磨いてきた。ブルペンでの投球練習で新たに取り入れたのは、予め球数を設定して直球を全力で投じるというもの。その際は細かい制球を気にすることなく、球威をとことん追い求めた。「キャッチャーとも相談しながら、今の強さならファウルになるなどど確認していました」。ウエートトレーニングでは瞬発系のメニューを重視したことも、球速アップにつながった。
そんな大江を一回りも、二回りも成長させたのが、「衝撃的でした…」と振り返る今夏の都市対抗準々決勝・西濃運輸戦だった。6回途中から2番手として登板。9回までを無失点に封じると、タイブレークに突入した延長10回もゼロで切り抜けた。味方打線も勝ち越せず、迎えた11回。得点を与えず2死満塁までこぎ着けたが、3番・野崎大地に甘く入った初球のストレートを左翼席へ叩き込まれた。
「投げてはいけないと分かっていたところへ投げてしまった。完全な投げミス。あとはタイブレークなので1、2点はOKなところなのに、2死を取って欲が出た部分もあった。絶対に今後に活かさないといけない敗戦ですし、あの場面を一生忘れることはないと思います」
1球の怖さを改めて知った今、直球の球威アップを求めつつ、1球1球の精度を高めることに徹底して時間を割く。偶然の凡打は要らない。意図したところへ投げきり、必然のアウトを奪う確率をいかに高めていけるか。「やっぱり、(球数を)投げていくしかない」と自らに厳しさを求める。
今季、28歳にして自己最速を更新できたのは、地道な取り組みの積み重ねでしかない。「チームとしての最高成績、日本一を目指します。目指さないとそこには絶対に行けないんで」。まだまだ発展途上。悲願達成のその時まで、全身全霊を傾ける。