4季目を迎えるラグビーリーグワンはあす21日に開幕し、神戸は敵地のヤマハスタジアムで静岡と対戦する。悲願の初優勝を目指す今季。日本代表SO李承信(23)と元ニュージーランド代表ロックのブロディ・レタリック(33)が共同主将を務める。来年1月17日で阪神大震災の発生から30年。李はチームの先頭に立ち、生まれ育った地元に勇気と歓喜を届ける決意を示した。 (取材・構成 西海 康平、吉仲 博幸)
名実ともに神戸の顔となった李が、開幕へ向け言葉に力を込めた。来年1月17日で阪神大震災の発生から30年。「今、スティーラーズが自由にラグビーができているのは、当時の(支えてくれた)方々のおかげ。先輩方が築き上げてきてくれたものも受け継いでいるし、神戸市のために優勝したい思いが強い」。特別なシーズンへ決意を示した。
震災を経験していない世代とはいえ、神戸市に生まれ育ち、被災した歴史は授業などで学んできた。震災発生当時、長田区で人命救助に携わった父・東慶(トンギョン)さんからも多くの話を聞いたという。「当時の人たちが力を合わせて復興できたから今の神戸があり、今のスティーラーズがある」。加入から5季目。ケガで離脱していたが、13日のプレシーズンマッチ三重戦で戦列復帰し開幕に間に合う見通しだ。
昨年のW杯フランス大会はサモア戦の4分間だけの出場にとどまったが、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が復帰してからは日本代表の主力として活躍。今年6月からのテストマッチは11試合中7試合起用され、SOやFBとして多くの経験を積んだ。「強度が高い中でのスキルや一瞬の判断は、試合をしていくうちに成長している手応えがあった」。経験をチームに還元できれば、より頂点へと近づく。
昨季の定位置はCTB。ただ、神戸のデイブ・レニーHCからは「(代表では)15番として出たサモア戦が一番良かった。どのポジションでも高いレベルでプレーしてくれる」と信頼を寄せられており、今季は複数のポジションをこなすことになりそうだ。スコットランド代表フッカーのジョージ・ターナーらが加入。FW、バックスともに層は厚い。
神戸は18―19年のトップリーグを制した一方、リーグワンが始まってからの3季は7位、9位、5位にとどまっている。「もちろん目標は優勝だし、それに向けてシーズン中にも成長していきたい」と李。熱い声援を送ってくれるファンのためにも、覚悟を持って戦い抜く。
◇李 承信(リ・スンシン)2001年(平13)1月13日生まれ、兵庫県神戸市出身の23歳。4歳から兵庫県RSで競技を始める。大阪朝鮮高卒業後は帝京大に進学も中退。より高いステージを目指し20年9月30日にリーグワン神戸入り。代表歴はジュニアジャパン、U19日本代表。22年6月25日のウルグアイ戦で初キャップ。23年のW杯フランス大会に出場。日本代表キャップ18。1メートル76、85キロ。SO。
≪SH日和佐は7歳で被災「飛躍の年に…」≫
どれだけ時間が過ぎても風化しない記憶がある。SH日和佐篤(37)は「神戸の街としても(チームの愛称の)スティーラーズとしても特別な一年を過ごしたい。飛躍の年にしないといけないと、一人一人が感じている」と思いを込めた。
神戸市出身で、自身も7歳の時に被災した。周囲ががれきだらけとなったグラウンドは今でも脳裏に焼き付いているという。当時はプロ野球のオリックスがリーグ優勝し「活力になった」と力を込めた。
初のプレーオフ進出、その先につながる優勝を狙う新シーズン。15年のW杯イングランド大会に出場したベテランは「街を代表して戦うことをみんなで共有したい。プレーで、何かを感じてもらえたら本当にうれしい」と闘志をたぎらせた。
○…来年1月19日の浦安戦(ノエスタ)で特別にデザインしたジャージーを着用する。毎年、犠牲者を追悼するイベントでともされる「1・17」などを黒地のジャージーに表現した。神戸は「震災を風化させず、次世代へ語り継ぐことは私たちの大事な役目だと考えている」と説明した。