フォーム、制球力、スピン量の三拍子そろった左腕だ。阪神ドラフト1位・伊原陵人投手(24=NTT西日本)の投球フォームを、同じ左腕の本紙評論家・能見篤史氏(45)が分析。阪神、オリックスで通算104勝を挙げ、来年からは侍ジャパンの投手コーチも務める能見氏は「体をうまく使えてバランスがいい」と評したメカニックから制球力の良さ、スピン量の多さを見いだした。また、プロで似たタイプとして今季パ・リーグ最優秀中継ぎ投手に輝いた日本ハム・河野竜生投手(26)らを挙げた。 (取材・構成=惟任 貴信)
伊原の投球連続写真を見た能見氏は「欠点は特に見当たらない」と、うなずいた。
能見氏 欠点といえる欠点は見当たらない。体をうまく使えている。全体を通して重心が低く、バランスも安定している。そこからいえることは、制球がいいであろうということだ。
続けて細部に目を移し、始動時にタメをつくれる点と、リリース移行時まで右肩が開かない点に着目した。
能見氏 まず目を引くのは(3)から(5)にかけて、しっかりタメをつくれている点。自分のタイミングで投げられるため、投げ急ぎがなくなる。加えて(6)から(7)にかけて、踏み出す右足の開きも抑え、内側に力をためることができている点もいい。そして(7)から(8)で体が出ていっているにもかかわらず、なかなか右肩も開かない。右肩を内側に閉じたまま(8)までいき、力を蓄えた状態で一気に(9)のリリースポイントへ。打者目線では、いきなり腕が出てくる感じを受けるのではないか。
また、そのフォームが生み出すスピン量の多さも推し量った。
能見氏 (8)から(11)にかけても踏み出す右足に体重を乗せてから、しっかり上から叩いて投げることができている。これができると、球威に加えてスピン量が増える。下半身もうまく使うことができており、投げるバランスがいい。質のいいボールを投げられる確率が高い投げ方。気をつけるべき点を挙げるなら(8)の肘の位置か。常にここまで持ってこられるといいが、ここより下がるとシュート回転し出すので、注意が必要だろう。
さらにグラブの使い方にも目を細めた。
能見氏 (6)から(9)にかけてのグラブの使い方もいい。前に出したグラブを、ねじりながら引くことによって生じた力も投球に生かすことができている。
一方で、注意すべき点として指摘したのは、角度のなさだ。
能見氏 身長が高くはないので角度という点では難しい部分がある。とはいえ低めに制球はできそうなので、そこにしっかりと決まれば、打者もそう簡単には打てないはず。ただ先述した通りボール自体に角度はないので、ベルト付近の高さに集まってしまう時は注意が必要だ。
プロで似たタイプには日本ハム・河野、カブス・今永、阪神・富田らの名を挙げた。
能見氏 プロの投手で似たタイプの投手を強いて挙げるなら日本ハム・河野だろう。球速は違うが、河野も切れで勝負するタイプ。独特なフォームながら伊原投手同様、コンパクトに腕を使う左腕で、ボールが出ていく低さも近い。またフォーム的にはカブス・今永も重心が低くてボールの出どころが見づらい投手で、身長が高くない点も合わせて考えると似ている部分がある。阪神・富田ともイメージが重なる。
総じて、フォームに大きな欠点はない。あとは実際に投げるボールの強さとみる。
能見氏 腕の振りが良く、制球力も高いであろう投手。先発や、中継ぎのいいところで使えそうな期待はある。あとは、ボールに強さがあるか。だから早くプロの打者の反応が見てみたい。社会人出身とはいえ、まだ体も完全には出来上がっていない。これからが楽しみな投手だ。
◇伊原 陵人(いはら・たかと)2000年(平12)8月7日生まれ、奈良県橿原市出身の24歳。小1から晩成フレンズで野球を始め、主に投手。八木中では軟式野球部。智弁学園(奈良)では2年春から背番号11でベンチ入りし同秋から背番号1。3年春の選抜出場。大商大では2年秋に最優秀投手、3年春に最多勝、最優秀防御率でベストナインを獲得。NTT西日本では2年連続で都市対抗出場。1メートル70、77キロ。左投げ左打ち。