2010年から2019年、MLBのフロントはいくつか大きなミスを犯した。とりわけ若手有望株のトレードで、ドジャースが指名打者のヨルダン・アルバレスをアストロズに、ジャイアンツがザック・ウィーラー投手をメッツに、パドレスがマックス・フリード投手をブレーブスに、トレイ・ターナー内野手をナショナルズにトレードした件などがある。
2020年代はまだ半ばだが、そのようなトレードはほとんど見られない。トップの若手有望株は球団において最も貴重な資産とされ、よほどの切羽詰まった状況でなければ手放すことはない。しかしながらそれでも、フロントのミスは存在する。そこでスポーツ専門局「ESPN」電子版が、この5年間で各チームが犯した最悪の判断を掘り下げた。その中で20年代で最も大きな判断ミスとして選ばれたのが、エンゼルスが23年、大谷翔平投手をトレードデッドラインにトレードしなかったことだとしている。
アート・モレノ氏は、大谷をトレードしたオーナーと言われたくはなかった。しかし結果的に、大谷(とマイク・トラウト)とともに勝てなかったオーナーとして記憶される。モレノ氏は、このトレード期限での決断を「ファンのために最善を尽くした」と正当化。翌春、「ファンはチケットを買い、試合を観戦する。ファンの視点から言うと、大谷は特別な存在だ。彼がプレーする姿を見たい。私たちはエンターテインメントビジネスをしている。大谷を残してチャンスを掴むことが最善だと判断した」と説明した。
しかしながら、大谷をトレードしないというニュースが流れた7月26日、エンゼルスは首位から7ゲーム差。当時、大谷はまだ肘を故障しておらず、彼をトレードに出せば多くの若手有望株を獲得し、2015年以来勝ち越しシーズンがないチームを立て直すチャンスがあった。
それでもエンゼルスは大谷を残し、逆に若手有望株を放出し、ベテランのルーカス・ジオリト投手とレイナルド・ロペス投手を補強し、わずかなプレーオフ進出の可能性に賭けた。だが、1週間もたたないうちにプランは崩壊。8月の初めに7連敗を喫し、完全に脱落した。ジオリトは6試合に先発して1勝5敗、防御率6.89。ロペスはリリーフで0勝2敗。エンゼルスは73勝89敗でシーズンを終え、その2か月後、大谷はドジャースと契約を結んでいる。
もっとも、成功者のドジャースも失敗はある。ESPNの選ぶドジャースの失敗は同じく23年7月、ランス・リン投手のトレード獲得だった。ドジャースはそのシーズン100勝を挙げたが、先発投手のケガの問題に悩まされ続けた。解決策として選んだのは、防御率6.47のホワイトソックスのリンを獲得すること。リンは119イニングで28本塁打を許していた。
ドジャース移籍後もリンは打ち込まれ、64イニングでさらに16本塁打を許した。それにもかかわらず、ナ・リーグ地区シリーズ第3戦の先発マウンドに立った。リンは1イニングで4本塁打を許し、試合も敗れ、ドジャースのシーズンにピリオドが打たれている。