パナソニック・坂下翔馬内野手(22)が入社1年目から、ヒットマンとしての本領を遺憾なく発揮した。打率・333はチームトップ。都市対抗、日本選手権の近畿地区予選でもともに3割台の数字を残したが、満足の2文字はどこにも見当たらなかった。
「ピッチャーのレベルもすごく上がって、まだまだ真っすぐに力負けしている部分があります。真っすぐに振りまけないことが課題になってくるので、もう少し体全体を使って、体重をしっかり前にぶつけていくことを意識しています」
入社2年目となる今季。課題の克服へ向け、自らがやるべきことは分かっている。枚方市内のグラウンドで重点的に取り組むメニューは瞬発系。スピードを高めることが、一線級の投手が繰り出す150キロ超えの直球に振りまけないスイングにつながると考える。
身長1メートル65の体格ながら、類い希なる野球センスと反骨心で輝かしい野球人生を切り開いてきた。智弁学園(奈良)では2年春と3年夏に甲子園に出場。3年時には主将を務めると、U18日本代表でも主将に任命された。近大に進学後も1年秋からレギュラーの座をつかみ、4年間でリーグ戦通算86安打をマーク。抜群のリーダーシップも健在で、4年秋には主将としてリーグ優勝へと導いた。
パナソニックでも早々に遊撃の定位置をつかんだ坂下にとって、忘れられない一戦がある。日本選手権出場をかけた、三菱重工West戦。0―1の9回無死一、二塁の好機で打席に立ったが、バントを失敗し投飛併殺打に倒れた。
「ネクストの時から次に出るサインであったり、状況判断であったり、準備の段階で幅広く考えていればああいうことにはなっていなかったと思います。準備不足でした」
チームはそのまま敗戦。都市対抗に続き、2大大会出場を逃すこととなった。
「試合に出させていただいている中で2大大会に出られなかったことに責任を感じていますが、すごく良い経験をさせていただけたとも思っています。(全国大会を)2回逃しているので、今年はとにかく2大大会出場を目標にします」
1球の怖さ、1点の重みを改めて知ったからには、悔しい敗戦を今後の糧にしなければならない――。その思いがにじみ出るからこそ、中本浩監督は「とにかく前向きで元気がある。守備にしてもいいものを持っているし、2大大会の予選でも積極的にいくところを見せてくれた」と評価する。
取材の終盤、「何か言い残したことは?」と問いかけると、しばしの沈黙を経て、坂下は言った。「小さな巨人から目を離さずに見ておいてください」。自らを奮い立たせるキラーワード。ほとばしる情熱もまた、強力な原動力となる。