◇大相撲初場所初日(2025年1月12日 両国国技館)
場所後に横綱昇進を目指す2大関が順調なスタートを切った。九州場所で初優勝した大関・琴桜(27=佐渡ケ嶽部屋)は隆の勝(30=常盤山部屋)を寄り切りで下し白星発進。大関・豊昇龍(25=立浪部屋)も霧島(28=音羽山部屋)を退けた。3場所ぶり出場の横綱・照ノ富士(33=伊勢ケ浜部屋)は結びで若隆景(30=荒汐部屋)に、大関・大の里(24=二所ノ関部屋)は翔猿(32=追手風部屋)にそれぞれ敗れる波乱があった。
結びで波乱が起き、騒然とする東支度部屋。動揺を隠しきれない横綱が至近距離に腰を下ろしても、琴桜は淡々とした表情で帰り支度を急いでいた。「まだ始まったばかりなので。明日からも自分の相撲に集中してやっていくだけ」。初めての綱獲りにも気負うことなく、27歳は平常心を貫いた。
昨年九州場所で初優勝を果たし「しっかり辛抱してやればできる」と実感した。一発の破壊力のある隆の勝戦は、まさしく辛抱してつかんだ勝利だ。土俵際で相手のすくい投げで俵に足がかかったが、懸命に踏ん張って残すと左の上手を奪って反撃に出た。ここで一気に攻め込まず、ひと呼吸置く心の余裕があった。ゆっくりと体勢を整えてから慎重に出て寄り切り。新たな一面をのぞかせる勝利に「土俵際で攻められてもバタバタせずに、相手の動きに対応してじっくり攻められた。慌てずにしっかり落ち着いていけた」と納得の表情だ。持ち味発揮の相撲で場所総見で来場した横綱審議委員会の各委員へのアピールも成功。山内昌之委員長(東大名誉教授)からも「慎重でも勝った。勝てば大丈夫と思う」と後押しされた。
この日は自身の優勝額が初めて向正面の天井に掲げられた。「小さい頃から見てきたもの。そこに自分のものがあって思うところはある。一度きりではないので、2度、3度と(優勝を)積み重ねていく」。横綱昇進は祖父(元横綱・琴桜)との約束。辛抱することを求められる過酷な戦いが幕を開けた。(黒田 健司郎)