◇ALSOK杯第74期王将戦7番勝負 第1局第2日(2025年1月13日 静岡県掛川市 掛川城二の丸茶室)
将棋のALSOK杯第74期王将戦7番勝負(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)は13日、静岡県掛川市の掛川城二の丸茶室で2日目が指し継がれ、4連覇を目指す藤井聡太王将(22)が112手で勝利した。挑戦者の永瀬拓矢九段(32)が選んだ相掛かりを後手番で打ち破った。過去6期、第1局勝者が制してきたシリーズ。前期の栃木県大田原市以外は掛川開催だったことから「掛川を制する者が王将戦を制す」を目指す。第2局は25、26日に京都・伏見稲荷大社で指される。
盤上に風を吹かせた。藤井が駒台から桂を6五へ置いた66手目(第1図)。敵陣に一切足掛かりのない状態からさらに68手目△5五香を追加すると、もう詰めろがかかった。つまり永瀬は受けに回らない限り王が詰まされてしまう。攻守が、交代した。
「陣形差のある形で戦いを強いられた。攻め合いの形になって楽しみができたかなと思いました」
振り駒で後手番になり、受けに終始する展開が続いた。1日目36手目の△2二金。将棋用語の避けるべき悪形「壁金」を甘受した後、永瀬飛車に破られそうな1筋へその左金を送った。この日もそうだ。49手目▲3四香に△2二銀。守りの要の金銀が、王から離れて端へ追いやられた。
昼食休憩明け。藤井はまだ不利を自覚していた。「しばらく受けに回って頑張れるかという展開です」。耳を赤く染め、打開策を探る。両者の座布団が将棋盤へ2センチずつ接近した午後、形勢は急接近して交錯し、逆転する。200キロ離れた東京・両国国技館で2日目を迎えた大相撲初場所では横綱・照ノ富士が初白星を挙げた。相手に攻めるだけ攻めさせて最後は勝つ。全8冠中7冠を一手に持つ22歳は盤上で横綱相撲を見せた。
羽生善治九段(54)と同学年の立会人・森内俊之九段(54)は「羽生マジック」の怖さを知る一人。△6五桂の魔力について「終盤力の高さを感じていると対戦相手は普段以上に硬くなる。実績は、対局中にも生きます」。看板が、永瀬を惑わせたとすれば「藤井マジック」と呼べる。
「二の丸茶室は素晴らしい雰囲気。地元の方に歓迎してもらえるので、期待に応えられるように頑張りたい」。戦前、藤井は意気込みをそう語った。第71、72期に続く掛川対局は自身3連勝。加えて、第68期の渡辺明王将以来、第1局を勝利した棋士は7番勝負を制してきた。掛川は第61期以降、前期を除いて第1局を担う。最長3カ月の長丁場ながら先行の利は大きいのだろう。
「掛川を制する者が王将戦を制す」とすべく、藤井が好発進した。 (筒崎 嘉一)