【25年版球界新士録(3)阪神3位・木下里都投手】大学3年までの木下は、プロ入りとはほど遠い投手だった。むしろ、アルバイトをして、遊びにも夢中な普通の大学生に近かった。推薦で福岡大野球部に入ったものの、競争に負け、心は腐りかけていた。
「恥ずかしながら、3年秋まで練習には身が入りませんでした。遊んでいる方が楽しいような。そんな毎日でした」
同じ推薦で入部した同級生は、チームで主力となっていた。そこで初めて、自分の立ち位置に気づいた。「自分は何をしているんだろう…。最後の年ぐらい、何か結果を残したい」。だが、残された時間はたった1年。何をしていいかも分からない。プライドを捨て、同学年でエースだった投手に頭を下げた。
「何からすべきかを教えてもらおうと。そこで、同じジムに通わせてもらうことになりました」
野球漬けの毎日が始まった。午後5時から同9時までの全体練習を終えるとジムに駆け込み、日付が変わって帰宅することもあった。体幹トレーニングを中心に体をつくり上げると、入学時のまま最速147キロで止まっていた球速が、4年秋には150キロにアップ。全日本大学野球選手権のマウンドも経験し、社会人・KMGホールディングスから声がかかった。
社会人の2年間でさらに球速を156キロまで伸ばし、即戦力の期待を背負ってプロ入り。「大学の時に諦めなくて、本当に良かった。でも、ここからがスタートなので」。“下克上右腕”は、まだまだ上を見据えている。 (松本 航亮)
◇木下 里都(きのした・りと)2001年(平13)1月27日生まれ、福岡県出身の23歳。福岡舞鶴では遊撃手で、3年夏は南福岡大会1回戦敗退で甲子園出場なし。福岡大で投手転向。KMGホールディングスでは2年目の24年に都市対抗出場。1メートル83、90キロ。右投げ右打ち。