神戸市東灘区出身の落語家・笑福亭銀瓶(57)。震災当時は結婚し、兵庫県尼崎市内に妻、生まれて4カ月の長男と築30年超の古アパートで生活していた。当日のとんでもない揺れで半壊に。隣の家との壁に人が通れるほどの穴が空くなどしたが、奇跡的に3人とも無事だった。
数時間後に電気は復旧。阪神電車青木駅近くに住む実家の両親のことを心配する中、テレビを付けて飛び込んできた映像にがく然とした。実家そばの阪神高速神戸線の巨大な橋脚が折れ、600メートル以上にわたって横倒しになった光景。「両親はもうこの世にはいないな」と覚悟したといい、乳飲み子を抱える身だったこともあって、隣接する西宮市の師匠・笑福亭鶴瓶の自宅に避難。その後、親の無事を知り、安どしたという。
その後は「我々のできることは無力かもしれないけれど…」と感じながらも落語を披露するための仮設住宅回りに奔走。傷ついた被災者の心に少しだけでも安らぎを、と尽力した日々を送っていた。
昨年、前述の長男が結婚。当時を回想しながら「父親としての責務を果たせたかな…」と少しほっとした表情を浮かべた銀瓶。震災30年を迎える17日は最も大きな被害を受けた地域の一つである、神戸市長田区にある上方落語協会の定席・神戸新開地喜楽館で“笑ってがんばろう!震災復興ウィーク”公演にあがり、中トリを務める。「噺家としてただただ楽しんでいただければ」と、これからもできることを一生懸命務めるつもりだ。