狂言師の野村萬斎(58)と長男の狂言師・野村裕基(25)が23日、大阪市内で公演「祝祭大狂言会2025」(4月26日、フェスティバルホール)の記者懇談会に出席。親子孫3代の公演を「恒例の舞台。フェスティバルホールというクラシックの殿堂といえる大きなホールで狂言をやる。毎回、工夫やトライアルを考えています」とPRした。
通常500人程度の能楽堂で上演される公演が多い狂言。2700席の大ホールで開催されるのは13年以来隔年で7回目。映像を使い、萬斎自ら狂言の解説を入れるなど、趣向を凝らした公演となる。
今回の演目は3題。萬斎の父・野村万作(93)が1人で「見物左衛門・花見」を演じる。芸歴90年の人間国宝。通常は2、3人で演じる狂言だが「野村家のみ伝わる狂言。もうすぐ94にもなろうという父が、1人狂言をあえて大きなホールでやる。まあ、たぶんソロで謡いたいんでしょうか」と萬斎が笑わせ、「舞いや謡が散りばめられた風情のある曲です」と説明した。
芸歴55年の萬斎も父・万作には脱帽。「天然記念物的な味わいというか。父と張り合おうと思って舞台を務めているが、ある種抜けて、解脱してる。一挙手一投足がひとつの奇跡とお客様に映る。何をやってもかなわないです。そういう瞬間を味わっていただく。元気な今しか味わえない。お見逃しなく」と父の演目をアピールした。
萬斎・裕基親子では「法螺侍」を演じる。シェイクスピアのオペラ「ファルスタッフ」を題材にして、91年に初めて英国で出品した作品。当時は万作が主役の洞田助右衛門を、萬斎が太郎冠者を務めたが、今回は洞田を萬斎が、裕基が太郎冠者を演じる。萬斎は「フォルスタッフを狂言化するとこうなるというのを楽しんでいただきたい」とした。
裕基は「父や祖父から受け継ぐのは珍しくないですが。最初に演じた人の個性が役に落とし込まれてい。父がどう演じたかを多少は意識してます」。かつて祖父、父が演じたこの作品を国立能楽堂で見たことがあり「祖父が“笑うが人生、笑わるるも人生。人間、所詮、道化に過ぎぬわい。この世はすべて狂言じゃ”というセリフがあるんですが、(芸歴)90周年の人が言う言葉は説得力を感じました。古典の良さ、シェークスピアの良さも盛り込まれています。頑張って務めたい」と意欲を見せた。
最近、裕基は「父と声がよく似てると言われる」そうで、萬斎は「親子で声に関しては非常に似てますね。ボクは親父と声が全然違って苦労したが、キーが一緒で、この人はあまり苦労がないかもしれません。ボクは父とは声が全然違って。父は甲高いが、普段はしゃがれ声。個性を持って変わってくるかもと楽しみにしてます」とした。
最後に萬斎が1人で演じるのが「MANSAIボレロ」。「東北の震災の折に鎮魂、再生を考えたことがきっかけで作った。「春夏秋冬に1人の人生をなぞるという複合的な意味を盛り込んだ作品。14年目で新作と言えるのか。繰り返し演じることでブラッシュアップされるのを見ていただきたい」と語った。