第97回選抜高校野球大会(3月18日から13日間、甲子園)の出場32校を決める選考委員会が24日に開かれる。その最大の注目点は近畿地区の選考だ。昨秋近畿大会に出場した大阪勢は1位・履正社と2位・大阪桐蔭がともに初戦敗退。3位・大院大高も準々決勝で敗れた。近畿出場枠は「6」で、1927年以来98年ぶり2度目の「大阪勢不在」の大会となる可能性がある。最後の望みは、近畿大会で唯一初戦を突破した1校に託されている。連載「届け!思いの丈」最終回は、96年春以来2度目の吉報を待つ大院大高が、一躍台頭するまでの裏側に迫る。
大院大高の躍進は、高級すし店での会話から始まった。辻盛英一監督は、大阪市大(現大阪公立大)の監督を11年から12年間務めた大学野球の指導者だった。しかし大阪府大との統合を機に22年限りで退任。行きつけのすし店で、板前に野球指導から離れることを報告すると、予想外の提案が返ってきた。「それなら大院大高の監督やらへん?」。同校は甲子園出場を目標に掲げて野球部強化に力を入れるタイミングで、優秀な指導者を探していた。あれよあれよと話が進み、23年3月、監督に就任した。
指揮官は保険代理店の社長でもある。業界屈指の営業マンらしく、同校には独自の「ブランディングがある」と言う。指導方針の一丁目一番地は、甲子園出場ではなく、「長く野球ができる選手を育てること」。就任後に屋内練習場やウエート室など全国屈指の最新設備が完成。個の力を最大限に伸ばせる環境が整うと、甲子園よりもプロ入りに憧れる好選手が集まった。
試合ではノーサイン野球を貫くが、「ノー作戦ではない」。統計学を生かしたセイバーメトリクスの論文を読みあさって得点効率の高い戦術を学び直しており、実戦練習を通して、知識を選手と共有。だから犠打か、強攻策か、盗塁を狙う場面か…は指示せずとも選手が理解している。
選手自ら最適解を判断し、生き生きと動き回る姿が旋風を起こした。就任2年目の昨春に大阪大会優勝。同秋には大阪大会3位で出場した近畿大会で8強入りした。実質的な大阪勢最後の砦として迎える運命の日。「プロを目指して取り組めば甲子園も行けるのではないですかね」。甲子園至上主義からの脱却。その結果として、聖地への扉が目の前にある。 (河合 洋介)
=終わり=
○…6枠ある近畿地区は、昨秋近畿大会4強校の出場が確実。5校目は1回戦で大阪桐蔭(大阪)に勝利した滋賀学園が有力で、6校目は近畿8強の大院大高と滋賀短大付の比較になるとみられる。大院大高は近畿王者の東洋大姫路に0―4と接戦を演じるも、2戦1得点の攻撃力が評価を分けている。滋賀短大付は1回戦で大阪1位の履正社に勝利した一方で、同県の滋賀学園が選出された場合は、地域性がネックとなる。滋賀短大付の保木(ほうき)淳監督は「結果がどうなろうと、選抜に向けて頑張った冬の練習は消えない」と泰然自若の構えで結果を待つ。
▽大院大高 1959年(昭34)4月に関西経済学院商業高等学校として開校し、63年から現校名。硬式野球部は60年に創部され、96年春に甲子園初出場を果たして8強入りと躍進した。主な卒業生には、江夏豊(元阪神)、金子丈(元中日)、アイドルグループ「なにわ男子」の藤原丈一郎らがいる。サッカー部、バスケットボール部、ゴルフ部なども強豪で知られる。