◇ALSOK杯第74期王将戦7番勝負 第2局第1日(2025年1月25日 京都府京都市 伏見稲荷大社)
将棋の藤井聡太王将(22)に永瀬拓矢九段(32)が挑むALSOK杯第74期王将戦7番勝負(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)は25日、京都市伏見区の伏見稲荷大社で第2局1日目を迎え、戦型は横歩取りへ進んだ。序盤から激しい斬り合いもある戦型で藤井は「AI流逆形」の構えを構築。過去7戦全勝と相性のいい古都で新時代の将棋を展開している。ここまで藤井の1勝0敗。午後6時27分、藤井が43手目を封じた。2日目は26日午前9時、同所で再開される。
指し手ではなく、長く指さなかったことにざわめいた。棋士らが集う対局場側の控室。永瀬の28手目△8八角成に至極当然の▲同銀を藤井が指さず、熟考に沈む。39分が経過後、▲同金(第1図)とした。
「成り行き上という感じ。通常ない形なので、慎重に考えていく必要があります」
読み進めれば他に選択肢がなかったのかもしれないが、駒の効率は確かに悪い。2手挟んだ後、△8六歩に歩成りを防ぐ33手目▲7八銀が必要になった。29手目▲同銀なら8七の地点へカナ駒2枚が利くため、33手目を省けた。加えて7八金・8八銀型なら8八銀を▲7七銀とすれば矢倉、▲8七銀なら銀冠にできたが、「逆形」の7八銀・8八金型だと余計に手数がかかる。戦前、警戒した永瀬の作戦の幅広さに苦慮したかに映った。
ところが、藤井は指した。近年はAIの進歩によって金の活用法への見直しが進む。例えば王の頭へ金を置く金冠を重用する棋士もいて、藤井はその一人だろうか。
「田舎へ帰れと言われかねません。一般的に師匠に叱られます」。立会人で王将4期の久保利明九段(49)がこの逆形の印象を語る。伝統文化である将棋では昭和前後まで内弟子制度が残った。故郷から夢を抱いて出てきた棋士の卵が、破門を告げられるのに似たセオリー度外視の一手。藤井が7八銀・8八金型を序盤で採用したのは21年8月の竜王戦以来。久保によれば「指し手の意図は違う」と言うが、相手が永瀬という共通点はあった。
藤井は京都対局との相性がいい。23年10月、史上初の全8冠独占を達成した王座戦第4局だけではない。過去7戦全勝。そして王将戦7番勝負の京都対局は1964年度の第14期第3局以来、60年ぶり。その対局場が現在のウェスティン都ホテル京都で、藤井にとっては全8冠独占の地という縁もあった。
昼食に藤井は地元の助六寿司専門店「中村屋」から「助六寿司」を注文した。いなり寿司、たくあんとキュウリののり巻きのセット。対局場の伏見稲荷大社は「お稲荷さん」の総本宮として知られる。それにちなんだ選択かとの問いに「そういえばそうです」と苦笑い。「いなりは甘く、のり巻きはさっぱり。交互に食べるとバランスが良かった」。栄養補給を完了させ、京都8連勝を狙う。(筒崎 嘉一)