日本相撲協会は29日、春場所限りで引退した力士を発表した。既に発表されている元横綱・照ノ富士(33=伊勢ケ浜部屋)、元小結・阿武咲(28=阿武松部屋)、元幕内・旭大星(35=大島部屋)の他に、幕下以下9人の引退が新たに発表された。
東三段目8枚目の海乃島(29=藤島部屋)は初場所を2勝5敗で取り終え、8年間の力士生活を終えた。14日目、最後の取組の相手は大学時代から対戦経験のある元十両・朝乃若(29=高砂部屋)。相手の左脇に首を入れる得意の形になると、高々と担ぎ上げながら左へひねり落として豪快に決めた。決まり手は「たすき反り」。らしさ全開で有終の美を飾った。取組後の花道では、対戦を終えたばかりの朝乃若から花束を受け取る場面もあった。
奄美大島出身の海乃島は、鹿児島商業高―専修大を経て藤島部屋に入門。2017年春場所で初土俵を踏んだ。体重100キロに満たない小兵ながら相手の脇に首を入れて低く食い下がる独特の取り口で土俵を沸かせ、入門から1年で幕下まで番付を上げた。高校時代から得意としていたという「反り技」の名手。これまでに「居反り」と「たすき反り」をそれぞれ2回ずつ決めており、「かいなひねり」15回、「下手ひねり」5回など捻り技でも魅了した。
初土俵から8年。「中に入っても反応が遅れたりする。30歳を区切りに、そろそろ潮時かな」と昨年夏場所頃から引退を意識するようになった。小兵ながら幕下を35場所務めた力士人生を振り返り「後悔はないです。やり切ったという気持ちしかない。楽しかったです」と表情は晴れやかだった。思い出の一番は、2022年春場所13日目の豊翔戦。同郷で鹿児島商業高の同級生を相手にはたき込みで勝利しており「幼なじみと幕下上位5番で当たったことが一番思い出に残っている」と振り返った。
最後の取組が行われた両国国技館には、奄美大島から両親と妹も応援に駆けつけた。部屋の千秋楽パーティーで断髪式を行い「海乃島」から「福山聖和」として第二の人生へ。今後は一旦地元へ帰り、東京で就職する予定という。
また、海乃島と同郷・奄美大島出身の大先輩にあたる元幕下の勝誠(38=境川部屋)も引退。20年間の力士人生に幕を下ろした。昭和61年度生まれで、豪栄道(武隈親方)や妙義龍(振分親方)、栃煌山(清見潟親方)、稀勢の里(二所ノ関親方)らと同じ「花のロクイチ組」の一人。アマチュア時代は小6でわんぱく横綱、山口・響高3年時に世界ジュニア選手権中量級優勝など輝かしい成績を残して境川部屋に入門し、2005年春場所で初土俵。1場所先に入門した同学年ライバルの沢井(のちの大関・豪栄道)、響高の先輩にあたる門元(のちの幕内・豊響)らと激しい稽古を積んで競い合いながら力をつけた。
身長1メートル68の小兵で反り技や捻り技などの低く食い下がる相撲を得意とし、2012年名古屋場所では関取昇進目前の幕下3枚目まで番付を上げた。三段目だった2023年秋場所を最後に休場が続き、昨年名古屋場所以降は番付外に。そのまま復帰することなく土俵を去ることとなった。海乃島と勝誠。奄美大島出身の「反り技の名手」が同時に2人、力士人生に終止符を打った。
この日新たに引退を発表した力士は以下の9人。
▽三段目
海乃島(29=藤島部屋)
▽序二段
常川(30=荒汐部屋)、本間(23=鳴戸部屋)、瞬鶴(22=錣山部屋)、森(32=荒汐部屋)、嶋村(23=荒汐部屋)、岡ノ城(21=出羽海部屋)
▽番付外
若山中(29=放駒部屋)、勝誠(38=境川部屋)
◇海乃島 聖和(かいのしま・せな)本名=福山聖和。1995年(平7)3月23日生まれ、鹿児島県瀬戸内町出身の29歳。幼少の頃から相撲を始め、古仁屋中を経て鹿児島商業高へ。2年時に全国高校選抜大会団体戦3位。3年時に全国高校金沢大会個人戦16強。専修大4年時に全国学生体重別大会100キロ未満級3位。藤島部屋に入門し、2017年春場所で初土俵。デビューから1年で幕下昇進。2020年秋場所、本名の「福山」から「海乃島」に改名。幕下を35場所務めた。通算成績167勝150敗5休。最高位は東幕下9枚目(2022年名古屋場所)。身長1メートル74、体重103キロ。