◇連載 叔父は第68代・朝青龍 豊昇龍が守る横綱の威厳(上)
日本相撲協会100周年の節目に、32年ぶりの横綱空位を回避するモンゴル出身6人目の横綱が誕生した。叔父に元横綱・朝青龍を持つ豊昇龍は、令和新時代の担い手として大きな期待を集めている。横綱昇進を決めた進化の過程と未来予想図を3回にわたって分析する。
「覚醒」の号砲が鳴ったのは昨年の九州場所前だった。稽古場で前への意識を徹底する豊昇龍の雰囲気が、別人のように様変わりした。師匠の立浪親方(元小結・旭豊)は証言する。「パワーが凄かった若い衆までもが“覚醒したね”と言っていた。そういう強さは見えた」。伏線は名古屋場所12日目の琴桜戦だった。強引な投げで右内転筋を痛め休場に追い込まれた。その影響で、秋場所は千秋楽にようやく勝ち越し。悔しさと絶望感の中でモンゴルの先輩、元幕内・東龍から「稽古はうそをつかない」と助言され、目を覚ました。
ケガをしない体をつくるのも、強くなるのも稽古が全て。10月の秋巡業では上位陣で真っ先に申し合い稽古を再開した。師匠からは大横綱・大鵬の言葉を伝えられた。「四股500回、てっぽう1000回。毎日やるから、みんなが力士と認めてくれる」。1日500回のてっぽうを自らに課し、元日も欠かさなかったという。
初場所は綱獲りの重圧の中、千秋楽は抜群の集中力を発揮し1日3勝。「逆転優勝ができたのは日頃の鍛錬があったから」と師匠は称賛する。稽古の鬼に変貌した25歳は「自信」という大きな武器を習得した。「今より2倍も3倍も稽古して地位を守りたい」。この言葉こそ新横綱の「所信表明」にふさわしい。 (特別取材班)