◇ALSOK杯第74期王将戦7番勝負 第3局1日(2025年2月5日 東京都立川市「オーベルジュ ときと」)
永瀬拓矢九段(32)との第3局は角換わりへ進み、後手・藤井聡太王将(22)はさらに右王を選択した。類型に昨年6月、人生初の失冠を味わった叡王戦第5局があり、その経験を生かす立ち上がりとなった。
まるで別人を見るようだ。藤井が1日目朝から指し飛ばす。持ち時間を使うのは永瀬の方で、初手から昼食休憩まで3時間半の消費は28分だった。
昨年7月、同じ2日制の王位戦第3局で1日目昼食休憩を挟んで3時間10分使ったこともある。手打ち蕎麦(そば)と鉄火丼を指定した昼食休憩前、「以前考えたことがある展開だったので」。疲れの色はなく、記憶をたどった。
2分で指した36手目△6二王(第2図)の右王。類型に昨年6月、全8冠独占が崩れた叡王戦第5局があった。
幼少から腕を競った同学年の伊藤匠叡王(22)に2勝2敗の最終局で屈した。当時藤井は先手で今回と逆だが、当時指されて困った手順を反映させたのだろうか。終局後、お互いの読み筋を披露し合う感想戦にうかがえる、傑出した読みの蓄積で実現した早指しだった。
2日制の先手番で32連勝している。21年度王位戦第1局で豊島将之九段(34)に敗れたのを最後に、京都・伏見稲荷大社で指された先月25、26日、第2局でも継続。今年度の公式戦20勝3敗、勝率・870を誇るのに対して、後手では12勝7敗、・632。この第3局を落とせば・600となり、プロ9年度目で最低となる。
昨年度、史上初の全8冠を独占し、対局が防衛戦続きとなれば相手は当然強敵ぞろい。「ビハインドはある程度あるとした上で、それを軽減する作戦を考えている」。7番勝負開幕前の取材に語った、後手番での指しづらさ。もはや互角から始まるゲームではないとの認識だろう。
「右王は研究が深めづらいのに積極的な指し回しです。持ち時間も節約できて、後手番としてまずまずの1日目でしょう」。副立会人の中村太地八段(36)が評価した。右王はAIの出現以降再評価され、後手の変化球の一つに位置づけられる。
封じ手後、藤井は2日目を見通して言った。「駒交換になって激しくなります」。決戦のゴングは迫っている。(筒崎 嘉一)