将棋の藤井聡太王将(22)=7冠=が佐藤康光九段(55)と対局した第74回NHK杯準々決勝が9日放送され、藤井が96手で勝利した。藤井が後手で戦型は矢倉模様へ進んだ。中盤のねじり合いから互角の展開が続いた終盤、佐藤に見落としがあったようだ。藤井が好機を捉えて寄せ切った。第72回以来2度目の優勝へあと2勝とした。
「経験のない展開になって形勢判断の難しい将棋だった。中盤戦、見慣れない局面が続いて、短い持ち時間の中ではどう判断していいのか分からなかった」
終局後、藤井が慎重に振り返った一方、放送を盛り上げたのが永瀬拓矢九段(32)のきめ細やかな解説だった。
藤井とはALSOK杯第74期王将戦7番勝負(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)の最中で現在藤井の3勝0敗。対戦成績21勝7敗で通算28局を重ね、タイトル戦期間中以外も藤井と練習将棋を指すという「藤井ウォッチャー」だ。
対局開始前、戦前インタビューで佐藤が「居飛車で行く」と語ったことを受けて「ということは、矢倉になる」と戦型予想を的中。「(佐藤が)藤井さんの経験値の少ない形を選んだ。戸惑っているのかなと思う」と心境を推測した。藤井が一時的に形勢を損ねた中盤、「苦しくしてしまって呆然としている表情」などと年中指す間柄だからこそ把握できる情報を盛り込んだ。
藤井の強さの要因を「序盤は将棋ソフト、中盤はタイトル戦で鍛えた、終盤は天賦の才」とも表現。両者の会話は、「藤井さんが鉄道とパソコン、私はアニメ。共通の趣味がないので将棋の話をするしかない」とも語った。
「藤井さんは終盤、瞬きが多くなる。読みが早くなっている証拠」と独自の観察眼を披露。終局直前、藤井の指し手に「羽生流ですね。遊び齣を使う」と感嘆する場面もあった。「序盤から佐藤九段の研究が光った。藤井さんが崩れずに対応した。序盤から見応えの多い将棋だった」と総評した。
藤井は今年度8冠以外に4つある棋戦のうち、朝日杯、銀河戦、JT杯の3つはすでに敗退した。残る最後のNHK杯取りへ、準決勝では第1局を先勝した第50期棋王戦5番勝負を戦う増田康宏八段(27)と対戦する。