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【内田雅也の追球】フォーシームの送球

スポニチアネックス 2025年2月12日 8時3分

 今春の阪神・宜野座キャンプで連日、午前のスケジュールに「部門別守備練習」と呼ぶ時間があてられている。内外野の各守備コーチがメニューを決める。

 11日、内野守備走塁コーチ・田中秀太が行ったのは内野手のカットプレーだった。左翼フェンス際から秀太がノックを打ち、中継の二塁手・遊撃手、または第2カットマンとしてトレーラーの一塁手・三塁手が本塁送球する。外野手の送球に代えてノックの打球にしたのは「どんな送球にも対応するため」である。

 二塁手・遊撃手の本塁送球は距離約40~50メートルあった。これをワンバウンドで投げる。一塁手・三塁手の距離は短く20メートルほどでダイレクト送球だ。

 眺めていると、ワンバウンド送球時、秀太は「縦回転、縦回転」と右肘を上げる動作で指導していた。「送球はどうしてもシュート回転してしまいますからね。バウンドしても少しでも真っすぐに、ということで」

 ゴロを捕って一塁に投げる。この時、内野手の送球は基本的にシュート回転する。人間はそういう骨格、体のつくりになっている。投手の球種で言えばツーシームだ。これを中継プレーの時はより上から投げ、いわばフォーシームの送球をしようという指導である。

 「ここ(宜野座)より甲子園の方が土は滑らかです。人工芝だと余計にバウンドしてピーンといきますから」。バウンドした球が真っすぐいくよう、縦回転のフォーシームを心がけるという。

 ワンバウンド送球で、しかもコーチが秀太というので思いだしたのが1996年夏の甲子園大会決勝、松山商―熊本工である。延長10回裏、1死満塁、右翼への大飛球で本塁で刺した「奇跡のバックホーム」である。松山商・矢野勝嗣はワンバウンドでなく、山なりダイレクト送球だった。

 敗れた側の熊本工監督・田中久幸は秀太の父親だった。父は後に講演で「ウチもダイレクト送球の練習もさせています」と語っている。「甲子園はいいのですが国際試合では内野が天然芝。バウンドさせては弾みません。先の舞台を見すえて指導しています」。社会人日本代表を率い、国際経験も豊富だった。

 この話をすると秀太は「それは知りませんでした」と言った。「マツダなど内野天然芝では考えないといけませんね」。2006年に他界した父のエールが聞こえたかもしれない。 =敬称略= (編集委員)

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