なかなか旅行に出られない時が続きますが、一方で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進み、地方では感染者数の増加が抑えられてきている地域もあります。国内旅行ならゆっくり検討し始めてもいいかなと思っている人もいるかもしれませんが、梅雨後半の旅行は自然災害に注意する必要があります。梅雨の終わりは、特に雨が激しくなりがちだからです。そこで、そのあたりの自然の仕組みを復習しつつ、2021年(令和3年)5月20日から表示が変わった避難情報についても整理します。
「梅雨前線」と「線状降水帯」の違いって何?
以前、「『梅雨』が長いと、夏はどうなる?梅雨の仕組みと冷夏・暑夏との関係」という記事で梅雨の仕組みを紹介しました。
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日本の北にある冷たいオホーツク海気団(高気圧)と、南の温かい太平洋高気圧の一部(小笠原気団)が押し合い、その前線が日本列島の上で停滞するので梅雨には雨が降るのです。
梅雨の後半には夏が近づくため、南の温かい太平洋高気圧の勢力が強くなります。さらに北上する台風などの援軍を得て、湿った温かい空気が南から前線にぶつかり、積乱雲が生まれやすくなります。
その仕組みとしては、
<大量の水蒸気(高相当温位)を持つ気塊ほどわずかに上昇するだけで積乱雲を発生させる>(日本気象学会『天気』より引用)
というメカニズムがあるからです。積乱雲とは垂直に発達した、いわゆる入道雲(雲の峰)のこと。入道雲は夏の季語でもあり、季節を感じられる風流な一面もありますが、大災害の引き金にもなります。
この積乱雲が、
<長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度>(小学館『日本大百科全書』より引用)
の狭い範囲に集中して次から次へと生まれ、数時間にわたって集中豪雨を発生させる場合があります。
雨が局地的に激しく降るこの雨域を「線状降水帯」とも呼びます。最近ニュースで聞く言葉ですよね。
「梅雨前線」と「線状降水帯」の違いがわかりにくいですが、両者はイコールではありません。もともと日本列島の上空に存在した梅雨前線へ、温かく湿った空気が南から吹き込み、積乱雲が次々と生まれます。その積乱雲が束になり、激しい雨を降らせる雨域を線状降水帯と呼びます。
交通事故で動かなくなった高速道路の車の列(梅雨前線)に、後続車が気付かず突っ込んで乗り上げたような状況(線状降水帯の積乱雲)に例えられるでしょうか。
静岡県熱海市で発生した土砂災害も、この線状降水帯で降った豪雨が引き金となっています。
旅人が学びたい「新しい避難情報」
梅雨の末期は、線状降水帯が生まれて豪雨が降りやすいといわれています。特に四国と九州で発生しやすいと『日本大百科全書』(小学館)に書かれていますが、同時に全国でも発生すると書かれています。
旅先で、あるいは今暮らしている場所で、いつ線状降水帯の集中豪雨に遭遇するかわかりません。特に不慣れな旅行先では、土地勘も少なく避難経路もわからない場合が多いため、避難情報に敏感になる必要があります。
しかも、2021年(令和3年)5月20日からは、避難情報の知らせ方に変更がありました。
従来の早期注意情報(警戒レベル1)、大雨・洪水・高潮注意報(警戒レベル2)に加えて、
・高齢者等避難(警戒レベル3)
・避難指示(警戒レベル4)
・緊急安全確保(警戒レベル5)
が新設され、避難情報が整理されました。
警戒レベル3では、避難に時間のかかる高齢者や障がいのある人が危険な場所から避難する必要があります。仮に旅の道連れに当てはまる人がいれば、若くて健康な人が率先して導きましょう。もちろん若くて健康な人でも旅の予定を中止したり、避難の準備を始めたり、自主的に避難したりする行動が求められます。
警戒レベル4(避難指示)は、従来の避難指示(緊急)と避難勧告を統合する形で生まれた新しい避難情報です。避難指示が出た時点で全員が避難を求められます。
警戒レベル5(緊急安全確保)が出た段階では、安全な避難すらできなくなっている可能性もあるので、警戒レベル5を待つのではなく、警戒レベル4の時点で全員が安全な場所へ避難しなければいけないのです。
旅人の場合は、地元の人に行政指定の避難場所の情報を求めたり、安全なホテルや旅館に戻ったりしてください。逃げ込んだ先でも、
・家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないか
・想定される浸水は自分の宿泊部屋よりも高いか
・水が引くまでの水や食料は十分か
をチェックしてくださいね。
警戒レベル5(緊急安全確保)の時はどうする?
情報の収集が遅れ、警戒レベル5(緊急安全確保)を避難完了前に万が一聞いてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
例えば先の2021年(令和3年)7月12日、島根県雲南市で緊急安全確保(警戒レベル5)が発令されました。
NHKの報道によれば、
・周囲の状況を確認
・近くの建物や自宅の2階以上に移動する
・斜面から離れた場所など、少しでも安全な場所で命が助かる可能性の高い行動をする
との呼びかけが現地で行われたといいます。気象庁によれば、
<何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い状況となっています。命の危険が迫っている>(気象庁のホームページより引用)
状況が警戒レベル5だといいます。もう避難できない可能性が高いので(例えば洪水が発生している)、少なくとも今いる場所より安全な場所へ移動する(例えば2階から3階へ移動する、斜面側から安全な側へ移動する)など、その場その場で助かる行動を考えるべきなのです。
旅先では風光明媚(めいび)な場所が好まれます。見方を変えれば、旅先が自然災害の起きやすい土地となっている可能性も高いです。例えば山深い温泉地や、湖畔や海辺のリゾート地、海抜の低いウォーターフロントの大都会といった場合もあります。
いずれも集中豪雨が発生すれば心配なエリアばかりです。何か雲行きが怪しいと思った段階で、自分がいる場所のハザードマップや過去の災害について情報収集をスタートし、いざ避難の段階になったら、すぐさま動けるように、この時期の旅行では注意したいですね。
[参考]
※ 防災気象情報と警戒レベルとの対応について - 気象庁
※ 「緊急安全確保」大雨警戒レベル5 そのときどうする? - NHK
※ 緊急安全確保 命を守る行動を 島根 雲南市全域 3万6861人に - NHK
※ 災害級の大雨もたらす「線状降水帯」をいち早く予測できる?命を守る新たな予測システム - FNNプライムオンライン
※ 新たな避難情報に関するポスター・チラシ
※ ウェザーニューズ、「ゲリラ豪雨」の予想発生回数を47都道府県別に発表
[All photos by Shutterstock.com]
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「梅雨前線」と「線状降水帯」の違いって何?
以前、「『梅雨』が長いと、夏はどうなる?梅雨の仕組みと冷夏・暑夏との関係」という記事で梅雨の仕組みを紹介しました。
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日本の北にある冷たいオホーツク海気団(高気圧)と、南の温かい太平洋高気圧の一部(小笠原気団)が押し合い、その前線が日本列島の上で停滞するので梅雨には雨が降るのです。
梅雨の後半には夏が近づくため、南の温かい太平洋高気圧の勢力が強くなります。さらに北上する台風などの援軍を得て、湿った温かい空気が南から前線にぶつかり、積乱雲が生まれやすくなります。
その仕組みとしては、
<大量の水蒸気(高相当温位)を持つ気塊ほどわずかに上昇するだけで積乱雲を発生させる>(日本気象学会『天気』より引用)
というメカニズムがあるからです。積乱雲とは垂直に発達した、いわゆる入道雲(雲の峰)のこと。入道雲は夏の季語でもあり、季節を感じられる風流な一面もありますが、大災害の引き金にもなります。
この積乱雲が、
<長さ50~300キロメートル程度、幅20~50キロメートル程度>(小学館『日本大百科全書』より引用)
の狭い範囲に集中して次から次へと生まれ、数時間にわたって集中豪雨を発生させる場合があります。
雨が局地的に激しく降るこの雨域を「線状降水帯」とも呼びます。最近ニュースで聞く言葉ですよね。
「梅雨前線」と「線状降水帯」の違いがわかりにくいですが、両者はイコールではありません。もともと日本列島の上空に存在した梅雨前線へ、温かく湿った空気が南から吹き込み、積乱雲が次々と生まれます。その積乱雲が束になり、激しい雨を降らせる雨域を線状降水帯と呼びます。
交通事故で動かなくなった高速道路の車の列(梅雨前線)に、後続車が気付かず突っ込んで乗り上げたような状況(線状降水帯の積乱雲)に例えられるでしょうか。
静岡県熱海市で発生した土砂災害も、この線状降水帯で降った豪雨が引き金となっています。
旅人が学びたい「新しい避難情報」
梅雨の末期は、線状降水帯が生まれて豪雨が降りやすいといわれています。特に四国と九州で発生しやすいと『日本大百科全書』(小学館)に書かれていますが、同時に全国でも発生すると書かれています。
旅先で、あるいは今暮らしている場所で、いつ線状降水帯の集中豪雨に遭遇するかわかりません。特に不慣れな旅行先では、土地勘も少なく避難経路もわからない場合が多いため、避難情報に敏感になる必要があります。
しかも、2021年(令和3年)5月20日からは、避難情報の知らせ方に変更がありました。
従来の早期注意情報(警戒レベル1)、大雨・洪水・高潮注意報(警戒レベル2)に加えて、
・高齢者等避難(警戒レベル3)
・避難指示(警戒レベル4)
・緊急安全確保(警戒レベル5)
が新設され、避難情報が整理されました。
警戒レベル3では、避難に時間のかかる高齢者や障がいのある人が危険な場所から避難する必要があります。仮に旅の道連れに当てはまる人がいれば、若くて健康な人が率先して導きましょう。もちろん若くて健康な人でも旅の予定を中止したり、避難の準備を始めたり、自主的に避難したりする行動が求められます。
警戒レベル4(避難指示)は、従来の避難指示(緊急)と避難勧告を統合する形で生まれた新しい避難情報です。避難指示が出た時点で全員が避難を求められます。
警戒レベル5(緊急安全確保)が出た段階では、安全な避難すらできなくなっている可能性もあるので、警戒レベル5を待つのではなく、警戒レベル4の時点で全員が安全な場所へ避難しなければいけないのです。
旅人の場合は、地元の人に行政指定の避難場所の情報を求めたり、安全なホテルや旅館に戻ったりしてください。逃げ込んだ先でも、
・家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないか
・想定される浸水は自分の宿泊部屋よりも高いか
・水が引くまでの水や食料は十分か
をチェックしてくださいね。
警戒レベル5(緊急安全確保)の時はどうする?
情報の収集が遅れ、警戒レベル5(緊急安全確保)を避難完了前に万が一聞いてしまったら、どうすればいいのでしょうか。
例えば先の2021年(令和3年)7月12日、島根県雲南市で緊急安全確保(警戒レベル5)が発令されました。
NHKの報道によれば、
・周囲の状況を確認
・近くの建物や自宅の2階以上に移動する
・斜面から離れた場所など、少しでも安全な場所で命が助かる可能性の高い行動をする
との呼びかけが現地で行われたといいます。気象庁によれば、
<何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い状況となっています。命の危険が迫っている>(気象庁のホームページより引用)
状況が警戒レベル5だといいます。もう避難できない可能性が高いので(例えば洪水が発生している)、少なくとも今いる場所より安全な場所へ移動する(例えば2階から3階へ移動する、斜面側から安全な側へ移動する)など、その場その場で助かる行動を考えるべきなのです。
旅先では風光明媚(めいび)な場所が好まれます。見方を変えれば、旅先が自然災害の起きやすい土地となっている可能性も高いです。例えば山深い温泉地や、湖畔や海辺のリゾート地、海抜の低いウォーターフロントの大都会といった場合もあります。
いずれも集中豪雨が発生すれば心配なエリアばかりです。何か雲行きが怪しいと思った段階で、自分がいる場所のハザードマップや過去の災害について情報収集をスタートし、いざ避難の段階になったら、すぐさま動けるように、この時期の旅行では注意したいですね。
[参考]
※ 防災気象情報と警戒レベルとの対応について - 気象庁
※ 「緊急安全確保」大雨警戒レベル5 そのときどうする? - NHK
※ 緊急安全確保 命を守る行動を 島根 雲南市全域 3万6861人に - NHK
※ 災害級の大雨もたらす「線状降水帯」をいち早く予測できる?命を守る新たな予測システム - FNNプライムオンライン
※ 新たな避難情報に関するポスター・チラシ
※ ウェザーニューズ、「ゲリラ豪雨」の予想発生回数を47都道府県別に発表
[All photos by Shutterstock.com]
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