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「チャイニーズ・タイペイ」って何?五輪に出場する国と地域の不思議

TABIZINE 2021年8月8日 12時0分

開催・中止と意見が分かれたまま無観客で開催する運びとなったオリンピックも、いよいよ閉会を迎えます。参加した国と地域は東京都教育委員会によると206だそうです。しかし、世界の国って200以上もありましたっけ?そう思って調べてみると、世界の独立国は日本が公式に認める数として196カ国でした。よくよく東京都教育委員会の情報を見ると、206の国と「地域」と書かれています。この違いは一体なんなのでしょうか?


(C) Chaay_Tee / Shutterstock.com
国ってなんだ?


そもそも国とは何なのでしょうか。まずは『広辞苑』(岩波書店)で「独立国」と調べてみました。
<完全な主権を有する国家。国際法上の能力を有する完全な国際法主体>(『広辞苑』より引用)
「主権」「国際法」などが理解の鍵を握っていそうなにおいがしますよね。「主権」をあらためて調べてみると、
<その国家自身の意思によるほか、他の意思に支配されない国家統治の権力>

<国家の政治のあり方を最終的に決める権利>(どちらも『広辞苑』より引用)
とあります。一方の「国際法」とは何でしょうか? 司馬遼太郎『竜馬がゆく』で坂本龍馬が幕末に繰り返し口にしていた言葉だったような気もします。辞書には次のように書かれていました。
<国家間の明示的または黙示的な合意に基づいて主として国家間の関係を規定する法>(岩波書店『広辞苑』より引用)
辞書以外では、ウルグアイのモンテビデオで締結された「国家の権利及び義務に関する条約」も参考になりそうです。同条約では「国家」の定義が次のように書かれています。

a 永久的住民
b 明確な領域
c 政府
d 他国と関係を取り結ぶ能力

これらを全部持った集まりを国と呼ぶのですね。

以上を踏まえると、例えば日米安保条約を結びたいと(自分たちの意思で)思い、他の国の人たちが反対しても(他の意思に支配されないで)締結できる人と土地の集まりを「国」と呼ぶのだとわかってきました。
台湾は国?


(C) kovop58 / Shutterstock.com

では一体、この「国」は、正式にいうと地球上にいくつあるのでしょうか? 結論から言えば、答えは一筋縄ではいきません。日本の外務省は、日本を含め世界に196カ国が存在すると公式ホームページで書いていますが、この数も2015年にニウエ、2011年に南スーダンとクックが増えた上での数字です。

しかも、この数の中には、例えば台湾が含まれていません。日本は台湾を国として認めていないからですね。一方で、台湾を国と認めている世界の国家も数こそ少ないですが確実にあって、例えばパラグアイは認めているようです。

そう考えると、台湾は国なのでしょうか?国ではないのでしょうか?その土地に暮らす人々はどう思っているのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する前、筆者は定期的に海外取材に出かけて海外のライターたちと各国を取材する機会に恵まれていました。同じ取材に台湾のライターと中国のライターがいて、ディナーなどでテーブルを囲む機会も普通にあったわけです。

旅先で仲良くなれば、何でも言い合える関係になります。ジョークの延長として「台湾は国なの?」と意地悪に質問すると、どちらもテーブル上では笑顔で「難しい問題だ」などとかわしていました。しかし筆者と一対一になると、お互いが「台湾は中国の一部だ」「若い台湾人は自分たちを台湾人だと当たり前に思っている」などと、まじめな顔で本音を語ってくれます。

いよいよわからなくなっていきますよね?
「チャイニーズ・タイペイ」って何だ?


今回の東京オリンピック・パラリンピックに台湾は出場しています。しかし呼び名は、「台湾(Taiwan)」ではなく「チャイニーズ・タイペイ(Chinese Taipei)」です。中国なのか台北なのか台湾なのか、混乱する名前ですよね。

CNNの報道によると、もともと台湾は「中華民国(Republic of China)」の名前で五輪に出場していたそう。しかし中国が、その名前での参加を認めず五輪をボイコット。

1976年のモントリオール(カナダ)五輪では、逆に中華人民共和国(中国)を国として認めるカナダが中華民国(台湾)の出場を認めず、今度は中華民国(台湾)の側がボイコットします。事態を収めたい国際オリンピック委員会は北京政府と交渉を重ね、「チャイニーズ・タイペイ」の名前であれば台湾の選手の出場を中国が認めるように話をまとめます。

中国からすれば「Chinese」の言葉によって、台湾が中国に帰属する意味になります。一方の中華民国(台湾)からすれば「Chinese」は「あくまでも中国の文化圏にあるだけ」といった解釈ができます。要するに玉虫色の表現です。

「チャイニーズ・タイペイ」の名前も中華民国(台湾)は当初拒否しますが、1984年のロサンゼルス(アメリカ)五輪ではその名称を受け入れ、「チャイニーズ・タイペイ」での参加となります。

それでも表彰台などで使用される「国旗」は、中華民国(台湾)正式の旗の掲揚が認められません。白地に五輪と中華民国の国章でデザインした梅花旗をあらためて制作し、以来使用するようになりました。



(C) Leonard Zhukovsky / Shutterstock.com

似たような例として北朝鮮の問題も身近にあります。日本からすれば、国の存在を認めつつも正統な国家として認めていない朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)。しかし北朝鮮は国際連合(国連)に加盟しています。今回の五輪には不参加ですが、国際オリンピック委員会加盟国でもあります。

こうなると北朝鮮は国家と言えそう。しかし、韓国も北朝鮮を国家として認めていません。逆に北朝鮮も韓国を国家として認めていません。それでも韓国は、東京オリンピック・パラリンピックに国として選手を送り込んでいます。

一定の領土に人々が暮らし、独自の政府を持つ集まりを国と呼ぶのか呼ばないのか、見方やその人の立場によって容易に変わってしまいます。本当に一筋縄ではいかないですよね。

実は、地球上に国がいくつあるかすら容易に決められない――オリンピック・パラリンピックは、こうした世界の実情を学ぶいい機会にもなってくれるのです。

[参考]
※ 大会参加予定国・地域情報 - 東京都オリンピック・パラリンピック教育
※ 世界の独立国の数はいくつ? - 二宮書店
※ 国・地域 - 外務省
※ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安全保障条約・安保条約)
※ 台湾を国家として認める国、19カ国に減少、その顔ぶれは?―米華字メディア
※ 台湾の五輪出場、なぜチャイニーズタイペイの名称なのか

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