病気やけがを癒やしてくれるのが病院。身の回りのお世話やケアをしてくれる白衣の天使も、命を預けるドクターも、頼りがいがあってとっても素敵に見えるもの。やはり、生死に関わる人々の姿には真剣さを感じ、ドラマで観ても迫力があります。患者さん側のドラマと医療従事者側のドラマが複雑に絡み合い見応えもあり、近年様々な医療ドラマが大ヒットしています。メディア研究の第一人者カナダのマーシャル・マクルーハン氏は、この現状を1964年に予測していたほどです。今回はそんな、多くの人の記憶に残った印象深い医療ドラマ作品を、ドクターメインで10作品選んでみました。みなさんは覚えていますでしょうか?
絶対に外せない!日本の医療ドラマの先駆け『白い巨塔』
患者第一主義の医者と出世命の医者、二人の対照的な医者の人間ドラマを描いた『白い巨塔』。小説の連載が始まった1963年からすぐに人気に火が付き、読者からの反響の大きさに完結後も続編が作られたほどでした。
最初のドラマ化は、1965年のラジオドラマ。主人公「財前五郎」の名前の元となった俳優「田宮二郎」さんが主演をつとめました。出世欲があり、時には弱者を権力でねじ伏せる財前を、あえて主人公に据えた原作も素晴らしいのですが、1966年の田宮二郎さんの映画版と1978年のドラマ版は、特にその迫力がすさまじいのです。田宮さん演じる財前という人間のすごみが画面からあふれ出て、体が震えるほどでした。
何度もテレビドラマ化された本作ですが、2003年の唐沢寿明さんの演じた財前も見事でしたね。原作や、田宮二郎さんの財前はニヒルな男前ですが、この当時の唐沢さんはコメディ色の強い役が多く、原作の山崎豊子さんは少し難色を示されたとか。人情医師の里見を演じた江口洋介さんも少し軽い印象の役が多かったので、この作品で二人の印象が大きく変わった方も多いかもしれません。放送年代の違いもあり、田宮さんバージョンに比べて多少かけ足で、田宮作品好きには色々と言いたい所もあるようですが、脇を固めた俳優陣も豪華で、自分の役割を理解し抑えた演技が魅力でした。権力しか興味がないような財前が、自らが被告となった裁判を見せないように母を気遣うシーンなど、人間の多面性を感じました。
コメディ脚本家・三谷幸喜氏の出世作『振り返れば奴がいる』
テーマソング『YAH YAH YAH』も印象深いのがドラマ『振り返れば奴がいる』。実は『古畑任三郎』でおなじみ、三谷幸喜氏の初ゴールデンタイムドラマです。未開拓な医療系でありながらも、見事にシリアスなドラマに仕上げてくれました。この作品の成功により、古畑シリーズが派生した事を考えると、ドラマ界に与えた影響は非常に大きいものがあります。
素晴らしいメスさばきを持ちながらも、院内の人間関係から冷血人間の仮面をかぶってしまった織田裕二さん演じる司馬。石黒賢さん演じる熱血漢の石川に比べるとかなり悪人に見えますが、やっている事や言っている事は、結果的に患者さんのため。最初は悪役と思いきや、司馬先生の医者としての信念にどんどん魅了されていきます。そして、織田さんの憂いのある表情にグングン視聴者が取り込まれていきます。最終的にお互いの信念を認め合う二人の姿が感動的でした。そしてあの結末・・・衝撃が走ります。
緊急時。医師はどう動く?『救命病棟24時』『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』
自分に厳しく完璧主義、しかし本当はとても心やさしい、ピーマン嫌いな事以外は非の打ちどころのないパーフェクト医師、江口洋介さん演じる進藤一生の活躍を描いた『救命病棟24時』。宮迫博之さんや児嶋一哉さんなど、芸人さんが演技派俳優と一緒に出演している事も面白いです。二人とも見事な演技でその後も俳優として大活躍されています。
第3シリーズでは、震災という緊急時での混乱や非常時の心理状態や人間としての在り方などが描かれ、ボランティアの重要性や、その人その人の立場や状況など、混乱時こそ思いやりの心を持ちたいと深く思います。第1シーズンでは研修医として進藤の指導を受けていた松嶋菜々子さん演じる小島楓が、第3シーズンでは指導医、第4、5シーズンでは医局長へと出世しています。第5シーズンは、進藤医師が出演しておらず、また、肝心の「救命」と少し内容がかけ離れてしまったこともあり賛否両論。しかし、小児医療や脳死、臓器移植など難しい問題を取り上げ、これまた深く考えさせられる作品でした。
緊急に命を救わなくてはいけない現場に直ちに駆けつける「ドクターヘリ」に乗る若い医師たちの活躍を描いた『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』。『救命病棟24時 第3シーズン』も震災時のトリアージ(治療する患者の優先順位)の重要性や、決断の重要性が大きく描かれています。決断したことで人の今後を変えてしまうという、医師という存在の大きさ、そして若い医師たちがその苦悩を知って成長していく姿がひしひしと伝わる作品です。
医師個人の知識と技術でどれだけの人を救えるか?『Dr.コトー診療所』『JIN-仁-』
大きな設備も器具もない、腕一本と知恵、そして人間性を信じてくれる周囲の協力だけで難しい病気やけがに対応する、離島の無医村にやってきた五島と島民との心のふれあいや過疎医療の実態を描いた『Dr.コトー診療所』。
そして、医療知識や器具のまったくない江戸末期で、歴史を変えてしまうかもしれないというジレンマと戦いながら一人でも多くの人を助けようと奮闘する『JIN-仁-』。
医療技術も大切ですが、最終的には人の心や大勢の人の協力こそが何より強いのかもしれません。どちらも人間の力を実感する作品です。人と人との心の交流が重要な作品なだけあり、恋愛模様も大変気になる要素でした。
派閥なんか知ったことない!職人気質のカッコよさ『医龍-Team Medical Dragon-』『ドクターX~外科医・大門未知子~』
日進月歩の医学界、実はドラマで描かれている最先端医療というのも、原作→企画→撮影→と進んでいく間に、最先端医療ではなくなってしまいます。よって、ドラマで「すごい技術」と言われている技術や能力でさえ、実際の現場では少々時代遅れだったりすることも・・・。そのため「技術」を前面に出した作品のヒットは難しい現状にあります。
そんな中で大ヒットしたのが、漫画を原作とした『医龍-Team Medical Dragon-』。大学病院の派閥にとらわれず、患者と向かい合った医療を目指す天才外科医、朝田龍太郎と、優秀な人材をあつめた医療チームが日本初のバチスタ手術の成功を目指す、原作に近い第一シーズン。権力と金、国際問題など、次々と問題に直面しながらも、自分をしっかりもった医師たちが集結して問題に立ち向かうすっきり感が人気です。
同じく爽快感がたまらないのが、『ドクターX~外科医・大門未知子~』でしょう。米倉涼子さん演じる大門未知子の、権力にこびず、そのためのリスクもきちんと受け入れ、任されたことはキッチリこなす、できないことはできないと断る、そのスマートなわがままさにはたまらないものがあります。技術のことなど、われわれ素人にはもちろん分かりませんが、病気やけがの時は不安になるもの。意思がはっきりとしていてぶれない頼りがいのあるお医者様には、やはり憧れてしまいます。
医局内にはトラブル満載!?『チーム・バチスタの栄光』『DOCTORS~最強の名医~』
医療ドラマというよりは、医療現場を舞台とした謎解きサスペンス。そんな名作が『チーム・バチスタの栄光』。ドラマ化するまでに期間があったため、「バチスタ手術」自体が前時代的な技術になってはしまいましたが、原作者が医師ということもあり、リアルな医療現場が描かれ話題となりました。「人の生き死に」に大きく関わる現場ならではの殺人事件やスキャンダルなどを、心療内科医の田口公平と、医師免許を持つ厚生労働省の役人、白鳥圭輔が探っていくミステリーです。伊藤淳史さん演じる田口の人の良さと、仲村トオルさん演じる白鳥のミステリアスな魅力、二人の掛け合いがたまりませんでした。
そして、最新の人気作といえば、『DOCTORS~最強の名医~』でしょう。医局内の権力争いやどす黒い陰謀に対し、脅迫や演技など、患者のために様々な計略を実行する沢村一樹さん演じる相良浩介。医療にはチームが一丸となることが重要だと、病院の立て直しを第一目標とし、目的のためには手段を選びません。良いのか悪いのか分からない相良のひねくれたヒーローっぷりが痛快で、シリーズを重ねるたびに視聴率が上がり、伝説の番組となりそうです。
『白い巨塔』という伝説の作品のヒットのせいか、日本では長く医療ドラマはヒット作に恵まれませんでしたが、近年は医療バラエティも人気で、非常に多角的な医療ドラマが増えました。症状から病気を導き出す『GM~踊れドクター』なども新しい取り組みのドラマでした。医療が進歩し、ドラマも多角化し、ドラマの人気で医療現場も活気づけば、皆が幸せになれますね。
今回選ばせていただいた、記憶に残る医療ドラマ10選
『白い巨塔』
『振り返れば奴がいる』
『救命病棟24時』
『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』
『Dr.コトー診療所』
『JIN-仁-』
『医龍-Team Medical Dragon-』
『ドクターX~外科医・大門未知子~』
『チーム・バチスタの栄光』
『DOCTORS~最強の名医~』
文/藤原ゆうこ