TBSの日曜夜9時のドラマ「日曜劇場」。翌日からの仕事や学校に向け、おうちでゆっくりまったりしながら「家族で観られるドラマ」です。視聴率も良いので製作費もかけられ、じっくり作られているのでクオリティも高く役者陣も豪華。「お休み最後の贅沢」として最終回を惜しみながら、毎回次回作を期待してしまう・・・そんな特別な枠でもあります。
その歴史は古く、なんと1956年から半世紀以上親しまれている「日曜劇場」。実は、連続ドラマの放送枠となったのは1993年から。意外と知らないTBSの「日曜劇場」の歴史について少し振り返ってみます。
単発ドラマ時代
日本のドラマの歴史に必ずと言っていいほど出てくるのが、1958年『マンモスタワー』。当時の人気俳優など総勢100名以上を動員し、東京タワー建設や、ラジオからテレビへと移り変わるマスコミ業界を描いた作品です。また、病気で若くして恋人を失った男性のエッセイを元にした純愛物語『愛と死をみつめて』を初めて映像化したのも「日曜劇場」枠でした。あの人気ドラマ『時間ですよ』も最初はこの枠の単発ドラマでした。
また単発ドラマ時代はキー局以外が製作に関わっていたのも特徴でしょう。たとえば、1971年から脚本家として多く起用された倉本聰氏ですが、1974年に北海道移住してからは、北海道放送製作作品に欠かせない存在となっており、大滝秀治さん主演の『うちのホンカン』シリーズなど後世に残る名作を輩出しています。サスペンスドラマなどの放送も「日曜劇場」が先駆者。ドラマ作品ではなく、番組枠そのものが文化的であると「菊池寛賞」を受賞するほど、日本の文化に重要な枠なのです。
連続ドラマは1993年から。なんと初回は不倫ドラマ・・・!?
最近では「子どもにみせたい名作」「家族でみたいドラマ」、そんな印象の強い日曜劇場ですが、実は連続ドラマ最初の作品は山田太一氏原作・脚本の『丘の上の向日葵』でした。小林薫さん演じる平凡なサラリーマンが、ある日ふと手助けした妖艶な美女(島田陽子さん)から「(昔)あなたの子どもを産んだ」と言われ、突然非日常に放り込まれるドラマです。小林さんはこの作品以後にドラマ主演が増えましたし、島田さんの怪しげな美しさも見事にマッチし話題となりました。美女の息子で体の不自由な高校生役を筒井道隆さん、娘役をドラマ初出演の葉月里緒菜さんが演じられています。実は兄妹かもしれないという二人の淡い恋も哀しくはかないものがありました。当時はトレンディドラマ全盛期。20代前半の若い男女の恋物語が多い中、「普通のサラリーマン」が主演のドラマという事で、中年サラリーマン層に大人気となりました。
サラリーマン主演のサラリーマンのためのドラマ枠
続く『課長サンの厄年』は、当時のサラリーマンが若い頃に熱中したドラマ『傷だらけの天使』『前略おふくろ様』などに出演されていた萩原健一さん。40代サラリーマンが直面しがちな会社や家庭のトラブルをコミカルに演じています。その後も『カミさんの悪口』『オトコの居場所』など、40代男性が主演の家族物ドラマが多く放送されました。1999年から放送されている人気シリーズ『サラリーマン金太郎』(後に木曜枠へ移動)は映画化もされました。
「感動の純愛」ドラマ多めの2000年前後
1994年『ボクの就職』(当時27歳・緒形直人さん主演)なども、頑固者の父親との関係を中心に描かれた作品です。しかし、1990年代後半からは当時のスポンサー商品が「家族向け商品」から「個人向け商品」へ変化したこともあり、20代後半をターゲットとした恋愛ドラマなども多く放送されるようになります。
代表作は、「日曜劇場」史上最大の平均視聴率となった『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』。木村拓哉さん主演というだけでも高視聴率が望めるのに、さらに「みんなで安心してみられる」という日曜劇場枠。まさに相乗効果といえるでしょう。その後も2004年、障がいのある女性との友情と恋愛を描いた『オレンジデイズ』、亡き妻と奇跡の再会をするファンタジー恋愛ドラマ『いま、会いにゆきます』など、哀しさの中にも愛情あふれる、ぜひ家族でみてほしい感動作が放送されています。
往年の名作から、漫画原作、医療ドラマと多種多様に
2003年『末っ子長男姉三人』、2007年『パパとムスメの7日間』などの家族ものや、2013年『とんび』、2014年『おやじの背中』など、親の愛を感じさせるものなども健在ですが、2000年『催眠』などのホラー、2010年『新参者』、2012年『ATARU』など、ミステリーものへの挑戦もあり、新たなファン層の心もつかみました。
また、2001年『白い影』、2004年『砂の器』、2007年『華麗なる一族』、2011年『南極大陸』など、往年の名作のリバイバルにも成功。漫画原作の『JIN-仁-』以降は、2012年『サマーレスキュー~天空の診療所~』などの医療ドラマや『天皇の料理番』などの歴史ドラマと、その幅を広げていきます。また、初期は軽いタッチの多かったビジネスドラマも、2009年『官僚たちの夏』、2013年『半沢直樹』のような、シリアスでより専門的な作品も登場し爆発的な人気を得ました。
最近では、2013年『空飛ぶ広報室』のようなライトノベル原作作品なども意欲的に映像化していますし、2014年『ごめんね青春!』のようなドタバタコメディも登場するなど、21世紀になり多角的なアプローチをするようになってからは、視聴率だけでなく、より人々の記憶に残る作品が増えています。安定した実力の俳優陣の起用に加え、人気の出そうな実力派新人俳優さんや女優さんを続々起用するところも、密かな楽しみといえるのではないでしょうか。日曜夜9時のドラマ「日曜劇場」。これからも引き続きドラマファンを楽しませてくれる事は間違いないでしょう。
文/藤原ゆうこ