2016年4月2日の日本テレビ系「有吉反省会」で紹介された、2人組アイドルグループ・おやすみホログラム。番組では、「おやホロバス」と呼ばれた、2016年3月5日〜6日に実施されたスノボツアーの様子が紹介されていました。そのツアーでは、メンバーがファンの乗るバスに同乗せず、夕食の場にも現れなかったなどしたため、「ぼったくりにも程がある!」「職場の慰安旅行に来た感覚」といった声が紹介され、おやすみホログラムの友人であるぱいぱいでか美が「本当に悪い人達じゃない」とフォローするほどでした。このツアーはインターネットで大きな話題になり、指原莉乃が「AKBグループ内でも話題になった」と証言したほど。もはやAKB48グループにもその存在を知られるおやすみホログラムとは、どんなアイドルなのでしょうか?
おやすみホログラムは、カナミル(望月かなみ)と八月ちゃんによる2人組。2014年9月から現在の体制となり、ときに「きったねぇ現場」と言われるほどのハードコアなステージとフロアで人気を急上昇させてきました。2人組になってから1年後、2015年9月には新宿ロフトでワンマンライヴを開催し、満杯にさせたほど勢いがあるグループです。
録音フリー!おやすみホログラムの奇妙な現場
YouTubeで「おやすみホログラム」と検索してみると、ライヴ動画の多さに驚くことになるでしょう。おやすみホログラムは、ライヴでの写真や動画の撮影、さらには録音までフリーであるという非常に特殊なグループです。これはプロデューサーであるオガワコウイチが、やはり録音フリーであったアメリカのバンドのグレイトフル・デッドの姿勢にならったものです。早ければライヴ当日にYouTubeにアップロードされるライヴ動画が、地方のアイドルファンの注目をも集めたことは見逃せません。オガワコウイチはそのスタイルについて「デメリットが見つからない」と語ります。
そのライヴ動画を見ていると、派手な髪色の女の子がフロアへ飛び込んで、ファンの頭の上で歌っていることがよくあります。ヤンキーの乱入でしょうか? いえ、それはメンバーのカナミルです。また、ステージにはニコニコと笑いながら歌い踊る金髪の女の子もいます。やはりメンバーの八月ちゃんです。こんなふたりによっておやすみホログラムは構成され、フロアはクラウドサーフやリフトで荒れ狂っています。
コアなロックファンをも唸らせるサウンド
そもそも、おやすみホログラムが現在のようなスタイルになったのは、2015年1月にHave a Nice Day!というバンドとコラボレーションをして「エメラルド」という楽曲を発表したことがきっかけでした。それ以降、Have a Nice Day!に触発されたかのように、おやすみホログラムもファンもハードコア化していきます。
ロック系のアイドルは多いものの、満足できるサウンドを聴かせてくれるアイドルはそう多くはありません。おやすみホログラムは、オガワコウイチのプロデュースのもと、しっかりしたサウンドを聴かせてくれるのが特徴です。そのサウンドに、当初私はUSインディーを連想していましたが、「tab song」では突然デトロイトへ向かったかのような打ち込みサウンドに。また、2015年のファースト・アルバム「おやすみホログラム」に収録されている「揺れた」という楽曲が、アルメニアのピアニストのティグラン・ハマシアンから影響を受けていると明かされたときには驚愕しました。音楽的な引き出しがとても多いのです。
そして、2016年4月に発売されるセカンド・アルバム「2」に収録される楽曲にも、打ち込みのトラックがあり、その中にはポスト・ロック以降を感じさせるサウンドもあります
アヒトイナザワとも共演!さらなる注目を浴びるおやすみホログラム
おやすみホログラムを決定的に特徴付けているのは、そうした楽曲群をふたりで美しいハーモニーで歌っている姿です。カナミルがフロアへダイヴしながら、ステージの八月ちゃんとハモっていることすらあります。一見、わけがわからない光景です。しかし、ヴォーカル・グループとしての力量の高さが、おやすみホログラムの真価とも言えます。
オガワコウイチのアコースティック・ギターを伴奏にしたアコースティック編成や、ジャズ畑のミュージシャンを中心にした「OYSMAJE(おやすみホログラム・オルタナティヴ・ジャズ・アンサンブル)」、ロック色の強い「おやすみホログラムバンド」と、様々な形態でライヴをしているのもおやすみホログラムの特徴です。
たとえば2016年4月8日には、おやすみホログラムバンドとして野外イベント「歌舞伎町シネシティ広場リニューアル祝賀イベント」に出演したのですが、レイザーラモンやとにかく明るい安村の後に登場し、会場を一気に騒乱状態にしていました。また翌日の4月9日のおやすみホログラムバンドのライヴは、ドラムをなんと元ナンバーガールのアヒトイナザワが担当。ナンバーガール時代の向井秀徳のMCを真似して、カナミルが「新宿区歌舞伎町から参りましたおやすみホログラムです。ドラムス、アヒトイナザワ」と紹介すると、アヒトイナザワがナンバーガールの「OMOIDE IN MY HEAD」のイントロを叩きだし、興奮したファンが発狂したかのような奇声を上げていました。これらの映像もYouTubeで見ることができます。
破滅状態だったバスツアーや、荒れ狂うライヴばかりが注目されがちなおやすみホログラムですが、こうした音楽面を見逃してはいけません。
ぼったくりツアー第2弾!?おやホロの快進撃が止まらない
2016年4月にはセカンド・アルバム「2」のほか、2冊目の写真集「おやすみホログラムDVD付ZIN(Vol.2)」が発売されます。写真集では、突然お洒落なアイドルのようになっていて驚きました。さらに今後は、Have a Nice Day!やNATURE DANGER GANG、そしておやすみホログラムなどによる「東京アンダーグラウンド」と呼ばれるシーンを追ったドキュメンタリー映画「モッシュピット」が公開予定。2016年6月15日には渋谷TSUTAYA O-WESTでセカンド・ワンマンライヴが開催されるなど、おやすみホログラムは夏に向けてその勢いを増しています。
ところで、アイドルがCDを複数枚買いさせるのは一般的なことですが、おやすみホログラムのセカンド・アルバムを2枚予約すると、ファースト・アルバムのリマスタリング盤が1枚付いてきます。商売っ気があるのかないのか、さっぱりわかりません。さらに、2016年5月28日には「#おやホロバス vol.2」と題して、イチゴ狩りとバーベキューのバスツアーを開催するとのこと。まったく懲りていない気配がするおやすみホログラムが、今後どんな話題、そして音楽を届けてくれるのか楽しみにしましょう。
◆ 文/宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」「Yahoo!ニュース個人」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。
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