今年の1月期ドラマ「就活家族~きっと、うまくいく~」。部下の女性の裏切りから、事実無根のセクハラ疑惑をかけられ、大手企業役員への出世も取り消され、50代を越えて無職となってしまう主人公・・・。ドラマの中では、事実無根である事を会社側は認識しているにも関わらず、トラブルを起こした事実だけで閑職への道が提示され、結果的に自主退職という流れに。
フィクションの中の話であれば楽しめるかもしれませんが、日々、額に汗して働く企業戦士としては、まったく他人事ではありません。何もしていないにも関わらず、女性の心無い一言によってこんな道を辿るなんて事が、絶対に無いとは言い切れないからです。
そこで今回は、事実無根のパワハラ・セクハラによる解雇について、弁護士の先生に詳しく聞いてみました。今回、教えて頂いたのは、アディーレ法律事務所の岩沙好幸先生です。
--記者
ドラマの中の主人公は、部下の女性の証言と、二人でお酒を飲んでいる写真によって、セクハラ被害を訴えられています。実際に、女性とお酒を飲みに行った事実だけで、セクハラやパワハラに認定される事はありえるのでしょうか?
--岩沙先生
部下の女性とお酒を飲みに行っただけでも、上司という立場を利用して、相手が嫌がっているにもかかわらず執拗に誘い続けた等の事情があれば、セクハラやパワハラに認定される事はありえます。表面上は女性がお酒の誘いに応じていても、後に、上司の地位や発言力から断れなかったと言われ、その事実が認められれば、セクハラやパワハラに認定される可能性があります。
また、お酒を飲みに行くこと自体に女性は合意していても、お酒の席で身体を触ったり、お酌を強要したりといった行為があれば、それらの行為がセクハラやパワハラに認定される可能性があります。
--記者
また、ドラマ内では、女性が訴えを取り下げた事から、セクハラに対する処分はなくなりましたが、一連のトラブルを起こした事実から、閑職への異動を命じられます。男性が何もしていないのに勝手に女性が嘘の証言をし、事実は認められなかったにも関わらずそのトラブルのせいで閑職に・・・というのは、あまりに理不尽に思うのですが。 この会社側の決定・判断は、何か法律に抵触していないのでしょうか?
--岩沙先生
他会社への出向については、労働契約法14条に規定がありますが、異動(配転)については、直接的にこれを制限する法律は存在しません。
異動(配転)については、異動命令に業務上の必要性が存在しない場合、異動命令が不当な動機・目的をもってなされた場合、異動が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、その異動命令は権利濫用となるとの裁判例(東亜ペイント事件。最判S61.7.14)があります。
今回は、セクハラ・パワハラがあったという事実は認められず、トラブルが生じたということのみをもって異動命令がされていると思われるため、業務上の必要性がない場合や、実質的にセクハラ・パワハラに対する懲戒、あるいはトラブルを起こしたことに対する懲戒目的という不当な目的にあたると認められ、異動は無効と判断される可能性はあるでしょう。
--記者
ドラマの中にかぎらず、世の中では理不尽な理由で自身の意にそぐわない異動や辞令がくだされることが多々あるかと思います。基本的には会社に所属している以上、理由はどうあれ、社員の処遇や待遇はすべて会社が決めるべきものだとは思うのですが、一方でどこまで社員側に、待遇や処遇に対して意見できる権利が認められるものなのでしょうか?また、それを守る法律などがありましたら詳しく教えてください。
--岩沙先生
セクハラ・パワハラ等を理由とする懲戒処分等には限界があります。例えば、セクハラ・パワハラがあったことを理由として、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、解雇等の懲戒処分を行う場合には、懲戒の事由や種別が就業規則等に規定されていることに加え、その懲戒がパワハラ等の程度等と比べて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効となります(労契法15条、16条)。
--記者
セクハラ・パワハラの事実はなく、ただその証拠も提示できない。痴漢の冤罪にも似ていると思うのですが、実際にこのような状況になってしまった場合、ドラマのような会社側の決定にならないようにするには、一体どのような対処をするのが良いのでしょうか?
--岩沙先生
最終的に、セクハラ・パワハラに当たるかどうかは、法律上の判断となります。また、仮にセクハラ・パワハラに当たる行為があったとしても、その行為を理由として、会社が、社員にどのような処分を行うことが許されるかも、法律上の判断となります。したがって、まずは、労働問題等を専門とする弁護士等に、今後の対応方法等を相談するのがよいでしょう。
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というワケで、今回は“事実無根のパワハラ・セクハラ”について、弁護士の岩沙好幸先生に色々とお話を伺いました。部下をお酒に誘っただけでも、表面上の合意だけでは結果的にセクハラ・パワハラ認定されてしまう可能性もあるとのこと。これでは部下を持つ中間管理職の皆様は、気軽に部下を飲みに誘うことも出来ません。
普段から良好な関係を築いておく事が何より大事なのでしょうが、それが簡単に出来るくらいなら、最初から問題など起きていないでしょう。リスクヘッジを本気で考えるなら、特に異性の部下をお酒に誘うのは極力やめておいたほうが良いかもしれません。
・取材協力
岩沙好幸(いわさよしゆき)弁護士(東京弁護士会所属)
弁護士法人アディーレ法律事務所