テレビ東京で放送中、片桐はいりさん主演の深夜ドラマ『東京放置食堂』。本作で片桐さんとともに居酒屋のカウンターに立つ、若き店主を演じている工藤さん。中学生の時に“全日本国民的美少女コンテスト”でグランプリを受賞し、その美少女性の印象が強い彼女でしたが、本作では島育ちのちょっとワイルドな雰囲気の役柄を演じ、これまでとはガラッと違う印象を見せています。“自分の人生の中でも特に勉強になった作品”という本作についての彼女の思いや、試行錯誤を続けてきたというその女優としての歩みを紹介します。
★工藤綾乃の新たな魅力を魅せる『東京放置食堂』
ドラマ『東京放置食堂』は、東京から120キロも離れた大島を舞台に、元裁判官の主人公・日出子(片桐はいり)と、島生まれの若き店主・渚(工藤綾乃)が営む居酒屋に訪れるさまざまな人々の人間模様と、大島ならではのおいしいご飯が毎回紹介されることで人気です。
工藤さんが演じる渚は、寡黙で不器用ながら、意志の強さを感じる女性。これまで演じた役柄とは一味違うものです。工藤さんは優等生っぽいイメージで見られることも多かったようですが、実際は渚に近い部分もあるそう。
演じるにあたり、「役を通して自分自身を知れるというか、渚と私はこの部分が共通していて、この部分は違うなとか、改めて自分を分析することができて、また人の人生を分析できることが楽しいです。その違う部分がいい具合に合致したときに、“工藤綾乃が演じる渚”がつくりあげられるんだなというのをすごく感じました」(GirlsNews、10月24日付)と語ってくれました。
この作品は深夜ドラマで、キャストも華やかな俳優というよりは演技派、実力派の人が顔をそろえているイメージですが、“作品を作る”ことが好きな人が集結していて、工藤さんもプロデューサーや脚本家らによる脚本の打ち合わせから参加したとのこと。これまで演じたことがないような役柄で、最初はとまどいもあったのではと思いますが、そういう作業もあって、撮影に入る前から役柄がしっくり馴染んでいたようです。
工藤さん演じる渚の登場シーンは、居酒屋のカウンターで客とやりとりをする場面や、堤防で釣りをしている場面など、日常の何気ない場面で、自身に特別大きな事件が起こるわけでなく、渚もキャラクターが際立っているわけではないので、特に難しかったといいます。以前演じたユニークなキャラクターの中国人留学生のようなの役のほうが演じやすかったそう。
「やっぱり感情がポンっと出たり、大きな事件が起こった中でのセリフだとやりやすいんですけど、日常のシチュエーションとか口数が少ない役って、しぐさひとつ、まばたきひとつで相手に伝わる印象が変わってくることもあるので………」(同上)とその難しさを明かしてくれました。
ただ、時間をかけて“渚”という役を研究できたことで、工藤さんが見事に“渚”として生きている印象が画面を通して伝わってきます。
★13歳で国民的美少女コンテストのグランプリに これまで女優としてさまざまな役柄を演じる
工藤さんは2009年、13歳のときに「第12回全日本国民的美少女コンテスト」に出場。見事グランプリとモデル部門賞を同時受賞しました。当時はモデル志望と語っていた工藤さん、またEXILEの大ファンとも語っていて、自身もジャスダンスやバレエを習っていたとのこと。ですが映画『劇場版 怪談レストラン』で主演デビューして以降、女優活動を中心に行なってきました。
ドラマでは『鈴木先生』(2011年/テレビ東京)で連ドラ初出演。その後単発作品をいくつか経験し、女子高生のサバイバルを描いた『リミット』(2013年/テレビ東京系)にレギュラー出演し注目されました。20歳を超えた頃から『新宿セブン』(2017年/テレビ東京系)でキャバクラ嬢役、『インベスター Z』(2018年/テレビ東京系)で中国人留学生役など幅広い役柄を演じるようになり、2019年の『つばめ刑事』(ひかりTV、dTV)はヤクルトスワローズのマスコットが刑事役を演じるというユニークな作品ですが、この作品では同僚警官役を演じました。
一方、映画ではデビュー作以降、“HIGH & LOWシリーズ”2作品に出演したほか、近年ではネット依存の女性を演じた『喝 風太郎!!』など大人になって役柄の幅を広げています。
宮崎県出身の工藤さんですが、グランプリ受賞後すぐには上京せず、高校を卒業するまで地元で普通の高校生としての生活も大事にし、大学入学のために上京。そこから活動の幅も広げています。
★周りから持たれる“優等生”“お嬢様”のイメージとのギャップに悩んだことも
工藤さんは“国民的美少女コンテスト”出身、しかもグランプリ受賞者ということで、これまでの芸能活動の中では、上記のように、優等生っぽい、お嬢様っぽく見られることも多かったといいます。
ですが、その素顔は、以前バラエティ番組『アウトデラックス』(フジテレビ系)に出演した際にも話題になりましたが、お酒が大好物で、おしゃれにすごく興味があるわけではなく(以前は休日ジャージで過ごしていたそう)、オジサンみたいな一面も持った、筆者のような本人よりかなり年上でも話しやすい、楽しい女性です。
当初は世間から見られるイメージと、本来の自分とのギャップに違和感や悩みを持っていたといいますが、「今は自分らしくやれてて楽しいなと思います。それを嫌だった時期もあったけど、今は別に、もう少女でもないので、どう見られようと、という感じではあります」(同上)と吹っ切れたようです。
また自分自身の中でずっと芸能活動を続けていくかどうかの迷いもあり、学生時代は女優活動をしつつ、将来は一般企業に就職するなどいろんな選択肢もあったといいますが、現在では「ずっとこの仕事をやっていきたい」と覚悟が決まったといいます。
特に今回の『東京放置食堂』のように、強いこだわりをもって作品作りをするスタッフ、演技派、実力派といわれる役者に囲まれるような現場を経験してますます女優の仕事への意欲は高まっているようです。
工藤さんは『東京放置食堂』について「インタビューで“印象に残っている作品はなんですか?”とよく聞かれるんですけど、その答えとして一番に挙げるんじゃないかなというくらい、濃い1ヶ月(撮影期間)を過ごさせていただきました。私の自分の人生の中でも勉強になった作品です!」(同上)と語ります。
「息の長い女優になりたい」と目を輝かせる工藤さん。今回の作品は特にいい出合いとなったようです。
文/田中裕幸