昨年放送されたドラマ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』での劇中アイドルグループのメンバー・舞菜役で注目された女優・伊礼姫奈さん。現在17歳。今月主演映画『私の卒業 18歳、つむぎます』が公開されたほか、『推しが武道館〜』の劇場版も5月に公開されます。4歳から子役として活動してきた彼女の、これまでの歩みや出演作でのエピソードなどを紹介します。
■知名度や人気の幅を一気に広げた“ドラマ推し武道”
『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は岡山で活動するアイドルグループ「ChamJam(チャムジャム)」と、彼女たちを熱狂的に応援するオタクたちの姿を描いた人気漫画が原作。アニメ化に続き、昨年ABCテレビ、テレビ朝日で実写連続ドラマとして放送。そのキャストたちの出演で続編として映画化され、5月に公開されます。
伊礼姫奈さんは、そのChamJamのメンバーの中で、主人公のフリーター・えりぴよ(松村沙友理)から熱烈な愛を捧げられる舞菜役を演じました。舞菜は、メンバーの中では不器用なキャラクターで、いかにもアイドルという感じの振る舞いや笑顔は見せない少女です。それもありメンバーの中での人気は常に下位ですが、えりぴよはそんな舞菜を献身的に応援します。
姫奈さんはアイドル経験はなく、歌とダンスの経験もほぼほぼない状態。アイドル役を演じるにあたり、原作やアニメの研究はもちろん、実際に地下アイドルのライブを観たりビラ配りしているアイドルにビラをもらいに行ったりして研究したといいます。
歌とダンスは、ChamJamのメンバー役で、同じ事務所のダンス&ボーカルグループ・@onefive(ワンファイブ)のメンバーたちからアドバイスをもらいながら乗り切ったとのことです。
その成果もあり、アイドルオタクに好まれそうな、慎ましやかでどこか儚げでもある舞菜を見事に演じました。
芝居の面では後輩となる@onefiveのメンバーは以前「姫奈ちゃんの表情の演技が素晴らしい」と語っていました。劇中舞菜は“心の声”を表現するシーンが結構あり、そこで表情とナレーションだけでその思いを表現するのは難しいところですが、自分を応援してくれるファンへの複雑な心の内を見事に表現していました。
劇中の舞菜の人気はイマイチという設定ですが、姫奈さんが演じたアイドルの姿は、技術的にもキャラクター的にも目立つわけではないけど、どこか目が離せない、日本のアイドルファンにウケるタイプのアイドルでした。
それは姫奈さんが、女優でありながらも、もともとアイドル要素もある愛らしいキャラクターであるからではないかと思えます。このドラマに出演したことがきっかけで、ファンが一気に増えたとのこと。女優の場合、仕事柄ファンと直接顔を合わせる機会は少ないですが、この作品でアイドルのライブや特典会のシーンをリアルに経験して、アイドルならではのファンから愛される感覚も経験できたといいます。
この物語の主人公は松村沙友理さん演じる、熱烈アイドルオタク・えりぴよですが、姫奈さん演じる舞菜の成長が描かれた物語で、特に5月12日公開の劇場版では二人の絆と舞菜の成長が描かれており、二人がW主人公と言っても過言ではない内容となっています。
■中学生時代は「芸能界をやめたい」としか思ってなかった!?
そんな姫奈さんが芸能活動を始めたのは4歳の頃。親が現在の所属事務所に書類を送ったことをきっかけに子役活動を始めました。その頃は人見知りが激しかったという姫奈さん。当時ダンスや芝居のレッスンを受けていたそうですがその場に馴染めず、ダンスはなかなか上手くなれなかったこともあり、レッスン中ずっと泣いていて、しまいにはダンスの先生から“無理に来なくてもいいよ”と言われたとのことです。でも演技の先生は泣いても泣いても見放さず、熱心に指導してくれたそうで、そのことで演技に本腰を入れ始めたとのことです。その先生は演技面だけでなく、人間的にも親身になって育ててくれたそうで、彼女が芝居をやっていきたいというきっかけになった出会いだと語ってくれました。
その後は順調に子役活動を続けた姫奈さん。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』に出演するなど活躍を見せます。ところが中学生に上がる頃には芸能活動に対する熱が下がっていきます。オーディションになかなか受からず、仕事が1年で2本程度というときもあったり、“落ちすぎて、もういいや”と半ばあきらめの気分になっていて、その雰囲気がオーディションの場でも出てしまっていたのか、どんどん負の循環に陥っていたといいます。
一方で学校の友達と遊んだり、部活に励む中で、そちらのほうが楽しいと思う気持ちが強くなり、この頃は「(芸能活動を)やめたいとしか思ってなかった」とインタビューで明かしてくれました。高校進学を前に、芸能活動がしやすい高校ではなく、一般の高校に通うことも視野に入れていたといいます。
その進学先を決めようとしていた頃に出会ったのが、内田英治監督のドラマ『向こうの果て』(2021年、WOWOW)。この作品で主演・松本まりかさんの幼少期を演じた姫奈さん。「中途半端な気持ちでできる役ではなくて、ずっとお芝居について考えなくちゃいけないし責任を感じた作品でした」(GirlsNews/2023年3月掲載)と語ります。「それがなかったら続けてなかったかもしれないというくらい、自分の中でも大きな作品でした。いろんな言葉をいただいて、『このままじゃダメだ、悔しい!』という気持ちに変わって、もっと頑張ろうと思いました。演技面でもいろんなことを言われて、悔しいと思ったし、楽しいとも思ったし、やっぱりこの仕事、お芝居が好きなんだなと思いました」(同上)と、そのときの思いを明かしてくれました。
子役で活動していた人が、進学のタイミングなどで芸能界を引退するケースも珍しくありません。もしこの作品、内田監督との出会いがなければ、今頃は普通の高校生をしていたかもしれません。
■主演映画『私の卒業 18歳、つむぎます』が公開中 女優として大きく成長できた作品
そんな姫奈さんの最新主演映画『私の卒業 18歳、つむぎます』が現在公開中です。こちらは若手発掘・育成プロジェクト「私の卒業」の“第4期”作品で、全編広島県福山市で撮影を実施。卒業とともに新成人を迎える高校生たちの物語で、大人になること、自身の行末に思い悩みながらも一歩前進していくドラマが繰り広げられます。
オーディションで選ばれたキャストたちがワークショップに励む姿を紹介するとともに、映画本編を見せるというユニークな趣向の作品。キャストは、姫奈さんのように長く役者活動をしている人もいれば、事務所に所属していない人もいます。
この作品で姫奈さん演じる主人公・愛理は高校の新聞部所属で、クラスのみんなの協力を得ながら街のPR企画に奔走する少女役。「物語に光を刺すような、太陽のような、すごく明るく元気な女の子」とのことで、自身とは少しキャラクター的に違うとはいいますが、「とにかく明るく元気にまっすぐということを意識して撮影していました」と振り返りました。
この作品への参加を通して「お芝居ももちろんそうなんですけど、現場での居方が勉強になりました。一応引っ張っていかなければならない立場だったので、自分がどう振る舞ったら場が和むのかとか、みんなと一緒に同じ方向に向かって行くために……ということは特にこの現場では学ぶことができました」(同上)と、彼女の女優生活の中でターニングポイントの一つとなった作品と語ってくれました。
素の姫奈さんは“推し武道”で演じた舞菜のような内向的な性格ではなく、明るい性格で、かといって『18歳、つむぎます』で演じた愛理とは違うタイプの明るさといいます。インタビューの場では、長い芸能活動の経験があるからか、17歳とは思えない落ち着いた佇まいで自身のことを理路整然と語ってくれた彼女ですが、同年代のキャストたちと共に登壇した『18歳、つむぎます』の舞台挨拶では、明るくよく笑う、等身大の高校生らしい雰囲気を見せてくれていました。そんな振り幅も魅力の彼女です。
今後も女優として幅広く活躍したいと語る姫奈さん。舞台や声の仕事などこれまでやったことのないことにも挑戦したいと意欲を見せます。まだ17歳、伸び代たっぷりの彼女がどんなふうに成長してくれるのか、とても楽しみです。
文/田中裕幸